アイリとディアは寝間着から普段着に着替えると、二人で一緒に部屋を出た。
朝食のために食堂に向かう途中、廊下の曲がり角を曲がった瞬間。
目の前の光景に驚き、二人は同時に立ち止まった。
かと思うと二人同時に、瞬時に曲がりを折り返して壁に隠れた。
アイリは興奮で呼吸を荒くしながら、小声でディアに話す。

「ディ、ディア、今、行っちゃダメだよ……」
「しょ、承知致しました……」

そう言うディアも、どこか冷静さを欠いているようだ。
アイリは、そっと壁から顔を出して、廊下の先の様子を覗き見る。
そこには、代理魔王のコラン、そして真菜の姿があった。

(真菜ちゃん、今日、お兄ちゃんの部屋に泊まってたんだ……)

コランと真菜は恋人どうしなので、それ自体は不思議ではない。
アイリとしても、兄のコランと、親友である真菜の恋は応援したい。
だが今の、その二人の体勢は……
コランが真菜を廊下の壁に押し付けて『壁ドン』の体勢で迫っているのだ。
アイリとディアは壁に隠れながら、その様子を固唾を呑んで見守る。

「うわぁ、お兄ちゃんってば、大胆……」
「本当は、もっと人目に付かない場所でして頂きたいのですが……」

もっともなツッコミをするディアであった。
コランとアイリが生まれた時から二人の世話役でもあるディアは、親心のように成り行きを見守る。
父親に似て、場所も空気も読まないコランが、真菜に何をしているのかと言うと……
ディアは魔獣の優れた聴覚で、二人の会話に聞き耳を立てる。
すると、まずは真菜の声。

「ちょっと……コランくん、いきなり何なの?」

いつもらしくないコランの攻めに、さすがの真菜も顔を紅潮させている。
するとコランは子供のような無邪気な笑顔で答える。

「父ちゃん直伝、壁ドンだ!」
「何それ?こんな場所で、恥ずかしいんだけど」
「どうだ真菜?オレにメロメロか?メロメロファイヤーか?」
「ちょっと意味分かんない」

ディアの耳にはその会話が聞こえていて、クールな彼も思わず吹き出しそうになる。
イケメンなのに言動が子供っぽいコランは、ムードも何もあったものじゃない。
まぁ、コランも真菜も、見た目は高校生くらいなので、それほど違和感はない。