朝、アイリは心地よい温もりの中で目覚めた。
目の前にはディアの寝顔が見える。
ディアは早起きなので、いつもだったら彼の姿は隣にない。
今日は少し早く目覚めたので、珍しく朝のディアの寝顔を見れて微笑んでしまう。
……しかもディアは、アイリを抱きながら眠っているのだ。

(わぁ……幸せ……)

すっかり目が覚めてしまったアイリは、しばらくディアの寝顔を見つめていたが、ふと視線を少し下にずらす。
ディアの綺麗な首筋と鎖骨が見えて、一瞬ドキッとするも、それの意味を探る。
……え、もしかして……?
そして次に、自分の胸元のパジャマを手で触って確認してみる。
そして、それの意味に、やっと気付いた。

(もう、ディアってば……起きてる時に、してくれればいいのに……)

頬を赤くして照れながら微笑むと、ディアの頬にキスしようと顔を近付けた。
その時、ディアの目がうっすらと開かれた。

「おはようございます……イリア様」

まだ半分、覚醒していないディアが挨拶と共に、無意識に口にした名前。
それは幸せ気分のアイリを一転させる言葉となった。

……『イリア』?
……今、私のこと『イリア』って呼んだ?
……イリアって……誰?

「ディア、私は、アイリ……だよ?」

アイリが声を震わせて問いかけるが、ディアには自覚がないようだ。
まだ眠そうな瞳をしながらも、ディアはアイリを優しく抱きしめた。

「はい。アイリ様……」

今度は、ちゃんと『アイリ』と呼んでくれた。
それに、いつもの優しいディアの瞳だ。
アイリは不安を掻き消そうと、必死に自分の中で答えを探す。

(ディア、寝惚けて言い間違えただけ……?)
(ううん、私が寝惚けて聞き間違えたのかも……)

ディアを信用しているアイリは深く疑いはせずに、そう思う事にした。
そしてディアも、今のアイリの様子を見て、ある事実に気付いた。

(イリア様の人格が現れるのは、アイリ様が眠っている間だけ……)

そして、アイリがイリアの人格であった時の記憶はない。
アイリは、自分の中にイリアという人格が存在する事に、気付いていない。
謎の存在であるイリアだが、性格や言動を除けば、その本質は同じ。
アイリもイリアも、同じようにディアを愛しているのだから。
だが同時に、アイリに言えない秘密を抱えてしまったディアは罪悪感に悩む。
別人格『イリア』、そして同種族『エメラ』からも、同時に愛されるという現状に。