その日の夜、アイリはディアのベッドの上に、大の字になって倒れた。
そしてディアも、その隣に座る。

「今日は楽しかったね、これで明日も頑張れるよ」
「はい。私も楽しかったです」
「今日買った服は、次のデートの時に着るね」
「はい。楽しみにしております」

そう言うと、ディアは体を倒して、仰向けのアイリに覆いかぶさった。
二人からは笑顔が消え、真剣な眼差しに変わる。
緊張と期待で、アイリの鼓動は一瞬にして速度を上げる。

(わぁ……ディア、今日も、くるの……?)

アイリの体は少しずつ熱くなり、ディア待ちの受け入れ態勢になる。

(ディア、今日もカッコいい……好き、大好き……)

ただでさえ誰もが見とれるイケメンなのに、そんなに見つめられてしまっては……
至近距離で見つめ合った後、ようやく触れるだけの軽いキスをした。
ちゅっと、軽い音だけが聞こえた気がする。

「おやすみなさいませ、アイリ様」
「……ふぇ?……あ、うん……」

最近は、自然と『おやすみ』のキスもするようになった。
その時だけは初々しい頃に戻ったようで、二人は同時に照れてしまう。
ディアが照れるという事は……今夜は夜行性の魔獣モードではない。
さすがにデートで歩き疲れたし、今日はないかぁ……
と納得するも、アイリは少しだけ期待外れだった。

部屋の明かりを消すと、二人は寄り添いながら眠りにつく。
アイリにとって、ディアと最も密着して温もりに包まれる、心地よい癒しの時間。
それにディアは、いつもアイリが眠るまで起きて見守ってくれるのだ。

少しして、アイリが寝息を立てて眠ったのを確認すると、ディアは静かに起き上がる。
アイリを起こさないように、そっとベッドから降りる。

(アイリ様、申し訳ありません)

ディアは心で呟きながら、ベッドで眠り続けるアイリに背中を向けて歩き出す。
その時、眠っていたはずのアイリの目が突然、覚醒したかのように見開かれた。
その瞳の色は、いつもの彼女ではない。黄金色に輝いている。
ディアはアイリの異変に気付かずに、部屋の外へと出て行った。


部屋から出たディアは、薄暗い廊下の窓ガラスの1つを開けた。
窓枠に足をかけると、そのまま勢いよく外に飛び降りた。
その瞬間、ディアの体が発光し、一瞬にして巨大な黒い犬の魔獣に姿を変えた。
いや、本来の姿に戻ったのだ。
コウモリのような大きな翼を広げて、ディアは街外れの森の方角へと飛び去った。
次第に魔獣の姿は、夜の闇に溶け込むようにして空に消えていく。