その時、ふとディアは気になる視線を感じた。
それは、アイリの背中側の席に一人で座っている女性から感じた。
見た目の年齢はディアと同じく20歳手前ほどで、深緑の長いストレートの髪。
色白の肌なので、少なくとも悪魔ではないだろう。
ディアは一瞬、その女性と目が合った気がするが、すぐにアイリの笑顔がその視界を遮った。

「ねぇ、私、このペンダントが似合う服が、もっと欲しいの」

アイリが頬を赤くしながら上目遣いで、おねだりのように言う。
常にペンダントをするようになったので、首元が見える襟の広い服を着たいのだ。
そんな心も見抜いているディアは、優しい笑顔で頷く。

「はい。お次は洋服店ですね。承知致しました」
「ふふっ、楽しみ。ディアが見立ててね」

こうして30分ほどのコーヒータイムを楽しんだ後、二人は席を立つ。
アイリは先に店の外に出て、ディアは会計をするため、レジの前で立ち止まる。
その時、ディアを追うようにして歩いてきた何者かが、ディアのすぐ背中側を通り過ぎようとした。
すれ違う瞬間、その者はディアの耳元に顔を近付け、そっと一言、囁いた。

「今夜、森でお待ちしています」

そう囁いたのは、さっきディアと目が合った、不思議な雰囲気の女性だ。
その言葉と異様な気配に、ディアがハッとなって女性の方に顔を向ける。
だが呼び止める間もなく、女性は早足で店の外に出て行ってしまった。
……見覚えのない女性だ。
不審な誘いに乗る気などない。だがディアの本能が、それを見逃す訳にはいかなかった。

ディアが店の外に出ると、何も知らないアイリが笑顔で抱きついてくる。
その純粋な笑顔を見て、ディアは何故か少しの罪悪感を感じた。

「行こう、ディア」

二人は自然と手を繋いで、そのまま繁華街の中を歩いて行く。

その後の二人は洋服店などを見て回り、存分にデートを楽しむ。
店から出る度に、購入した服や雑貨の袋が増えていくが、全てディアが持って歩く。
アイリは魔王に甘やかされて育った上に、根っからのお嬢様だ。
無欲な王妃に似て無駄遣いはしないが、本当に欲しいと思ったものは豪快に購入する。

そして、あっという間に夕方になり、二人は城へと帰った。