ディアの自己回復能力は凄まじく、数日後には通常業務に戻れるほどになった。
やはり、最強の魔獣だからだろう。
体の傷よりも、心の傷が深かったのかもしれない。
森での一件から、ディアは何か深く思い悩んでいるように感じられた。



その日も執務室では、コランがレイトに注意を受けながらも仕事と奮闘している。
少し離れた机にアイリは座り、ディアが森での件を報告する。

「森での視察の件のご報告を致します」
「……うん」

ディアは淡々としているが、その言葉と表情に、どこか暗い影を感じる。
アイリは手元の報告書に視線を落としながら、ディアの言葉を聞く。

「野生の魔獣が凶暴化している原因は、外部から来た密猟者への警戒からです」
「それなら魔獣は悪くないよね。魔界への入国審査を厳重にしてもらおう」
「はい。それと……」

そこで急にディアが言い淀んだので、アイリは顔を上げて彼を見つめる。

「森で発見された、重傷の密猟者3人は入院させて回復を待った後、魔界で裁かれます」
「うん、当然だよね……」

そこで報告は終わるかと思ったが、ディアがさらに言葉を続ける。

「密猟者の負傷は……魔獣の攻撃によるもの、です……」

あまりにも辛く苦しそうに言葉を吐くディアを見て、その続きが予想できる。

「おそらく、私……が……」
「ディアッ!!」

アイリにしては珍しく大声を上げた。
その声に驚いて、離れた席にいるコランとレイトが同時にアイリの方を見る。

「ディアは悪くないよ!だって、その人たちは犯罪者でしょ!?」
「相手が誰であろうと、無差別に人を攻撃するなら犯罪者と同じです」
「違うよ!そんなこと言わないで!」
「記憶がないのです。魔獣に戻って自我を失った時の……」

コランとレイトは全ての動作を止めて、アイリとディアの方を見つめている。
会話の内容までは聞こえないが、何やら険悪なムードに見えるからだ。

「なぁ……アイリとディア、なんかケンカしてないか?止めた方がいいか?」

……偶然ではあるが、見事に韻を踏んでいる。
そう言って立ち上がろうとするコランを、レイトが制止する。

「王子、待って。他人が口出ししちゃダメだよ」
「あの二人、いつもラブラブなのにケンカするんだな~、ケンタッキーか?」
「倦怠期だよ」

深刻な空気も、コランの一言で一気に空気が抜けて緩んでしまった。