アイリは、ディアのベッドで目を覚ました。
朝になっていて、カーテンの外は明るい。
いつの間に眠ってしまったのか、今日も記憶が曖昧だ。
隣には誰もいない。そのせいか、少し肌寒さを感じる。
ディアが帰ってくるまで起きていたかったのに……と思いながら、ベッドから降りる。
すると、

バァン!!

ノックもなしに突然、乱暴に出入り口の扉が開かれる。

「アイリ、起きたか!?大変だぞ!!」

入って来たのは、兄であり、代理魔王のコランだ。
アイリは驚いて思わず叫ぶ。

「お兄ちゃん、女の子の部屋なんだから、ノックくらいして~!!」
「え?なんだよ、ここ、ディアの部屋だろ?」
「あ……」

アイリは笑いながら恥ずかしそうに舌を出した。
だが、コランは深刻な顔をしていて、いつもの明るさがない。

「それで、何が大変なの?」
「あぁ……ディアが……」
「え?」

ディアが、昨日の夜から帰ってきていない。
それを聞いたアイリは昨日の胸騒ぎもあって、不安に体を震わせた。

「ど、どうしよう、お兄ちゃん……ディア、何かあったんじゃ……」

コランは、今にも泣きそうなアイリの両肩を掴んで言い聞かせる。

「きっと大丈夫だ。念の為、捜索隊を出すから、アイリは大人しく待ってろ」
「や、やだ……私も探しに行く……」
「森は危険な状況かもしれないだろ。任せておけば大丈夫だって、な?」

いつものように明るく振る舞うコランだが、心配な気持ちはアイリと同じ。
だが、仮にも今は魔王なのだ。その意識がコランを強く気丈にさせる。
その時、アイリの意識の中で、再び『あの声』が聞こえる。

『だ~か~ら、心配なら、行けばいいのに』

見下すような少女の声、口調。それが誰なのかは、分からない。

(誰?この声、誰なの……?……ディア……帰ってきて、ディア……)

視界がグルグルと回り出し、変な不快感に襲われる。
急に目眩を起こしたアイリは、フラフラと身体を揺らし、そのまま床に倒れてしまった。

「おい!!アイリ!?大丈夫か!?誰か!!医者を呼んでくれ!!」

アイリの薄れていく視界と意識の中で……
廊下に飛び出して叫ぶコランの大声だけが微かに響いた。