ディアは、一瞬にして野生を宿した金色の瞳を鈍く光らせて、相手を睨んだ。

「森を荒らし、魔獣を狩る行為……断じて許しません」

ディアは静かに怒りを込めると、懐から小型の拳銃を取り出した。
これは弾丸の代わりに、魔力そのものを込めて撃つ武器。
しばらく銃撃戦を続けるが、拳銃では猟銃に太刀打ちできない。
男の一人が、仲間に向かって叫ぶ。

「ヤツの魔力が落ちてきたぞ、一気に狙え!!」

ディアは拳銃を撃てば撃つほど、魔力を消耗していく。
弾丸ではなく、魔力そのものを放出しているからだ。
長期戦になれば、確実にディアの方が撃たれてしまう。

(くっ……魔獣の姿になれば……!!)

ディアは歯噛みする。魔獣の姿に戻れば、簡単に勝てるからだ。
しかし密猟者を前にして感情が昂り、魔力が尽きかけている今、魔獣の姿に戻ったら……
魔獣の本能を制御できずに自我を失って、この密猟者たちを喰い殺してしまうかもしれない。
魔獣となったディアを制御できるのは、彼が『契約』によって忠誠を誓った、魔界の王族のみ。

(アイリ……様……)

すでに何発かの銃弾がディアに命中し、致命傷には至らないものの、かなり負傷していた。
考えている余裕など、ない。
だが先に、ディアの魔力に限界がきていた。

「うぁぁぁああ!!」

ディアが咆哮とも言える叫び声を上げると同時に、彼の体が発光する。
その光が膨張し収まると、そこにはコウモリの羽根を持つ、巨大な魔犬が佇んでいた。
ディアの、本当の姿である。

魔獣であるディアは変身魔法によって、人の姿を留めているに過ぎない。
いや正確には、凶暴な魔獣の姿と本性を、魔法によって『封印』しているのだ。
当然、魔力が尽きれば、魔法も封印も解けてしまう。

3人の男たちは戦慄した。初めて見る、『最強の魔獣』の姿に。

「コ、コイツが、『バードッグ』……」
「初めて、見た……」
「や、やべえ……」

5メートルはある巨体、黒い毛並み、鋭い牙、鋭利な爪、理性を感じさせない、魔性の眼。
自我を失った魔獣・ディアの眼は、本能のまま、男たちに狙いを定めた。