狭いベッドで向かい合って寝ると、ディアの顔が至近距離に迫る。
白い肌、ブルーグリーンの髪、金の瞳、優しい目元……
アイリの栗色の瞳に映し出されるディアの全てが、鮮やかで美しく愛しい。
アイリはさらに近付いて、ディアの胸に顔を埋める。

(ディアの……シャンプーの香り?石鹸かな?いい匂い……)

ドキドキしすぎて眠れないと思いきや、あまりの心地良さに、アイリはすぐに眠たくなった。

(ディア……好き……大好き……)

もっとディアを見ていたかった、『おやすみのキス』したかったのに……
こんな、はずでは……そう思いながら、眠りに落ちた。

寝息を立て始めたアイリを抱きしめたまま、ディアは目を閉じて指先を少し動かした。
すると部屋の電灯が消えて、完全な暗闇になった。
アイリを起こさないように、魔法で電灯を消したのだ。
そして眠るアイリの耳元で、聞き取れないほどに小さく囁く。

「おやすみなさいませ、アイリ様」




しかし、この添い寝が『一夜の過ち』になるとは……
この時は、誰もが……この二人ですら、思いもしなかった。





そして、朝。

布団の中で一人、アイリは目を覚ました。
一緒に寝ていたはずのディアがいない。

(あれ……?ディア……?なんで、いないの……?)

アイリは上半身だけ起き上がって、朦朧とした意識の中で考える。
寝起きの頭で状況を理解するのには時間がかかった。
ああ、そうか……。アイリは、ようやく分かった。
ディアは朝、起きるのが早い。
アイリを起こさないように、ディアは一人で起きて静かに部屋を出たのだ。
『魔王の側近』が本業であるディアは、朝から晩まで忙しく働いている。
そのため遅寝早起きだが、魔獣は睡眠時間が短くても大丈夫らしい。

(おはようのキス、してみたかったのにな……)

まだ恋人でも夫婦でもないが、早くも生活スタイルのすれ違いに寂しさを感じるアイリであった。

(一緒に寝るのは、まだ早かったのかな?)

添い寝は、もっと親密になってからする事だと、事後になってようやく気付いた。
それに……キスだって、本当はディアの方からしてほしいと思う。

私がディアを好きなのと同じくらい、ディアが私を好きになってほしい。
いつか、ディアの方から『愛してる』って告白してほしい。
そのためには、こんな強引な方法じゃなくて、もっと自分が頑張らなきゃ!!

これまでの恋の悩みが嘘のように、貪欲で前向きな姿勢になるアイリであった。




しかし、このただ一度の添い寝が、『一夜の過ち』であった事実を……
すでにディアと『一線を越えてしまった』事実を……
さらに恋心を狂わせていくという事実を……
この時のアイリは、まだ知らない。