魔王の部屋から出たアイリは、先ほどの言葉を思い出しながら気合いを入れる。

(命令かぁ……。もう少し強気に行かなきゃダメだよね、うん……!)

気弱なアイリと、奥手なディア。この関係を進展させるには、今のままではいけない。
長い廊下を歩き進めるアイリの足は、無意識にディアの私室へと向かっていた。
ディアの部屋の前で立ち止まると、アイリはそっと扉に両手で触れて開けようかと迷う。

(いきなりディアの部屋に入ったら……驚くかな?)

だが何を思い付いたのか、そのまま手を離して足早にそこから立ち去った。
それから数分後、アイリは再びディアの部屋の前に立つ。
その姿は、ピンクの可愛らしいネグリジェ。アイリはわざわざ自室に戻って着替えたのだ。
こんな夜遅くにディアの部屋に行くなんて初めての事で、少し緊張する。
しかしアイリは、ノックもせずにディアの部屋の扉を堂々と開けた。
気弱な性格なのに、時に大胆な行動に出るのは、あの魔王の血なのか。
それに驚いたのは、いきなり部屋に訪問されたディアである。

「アイリ様!?どうされましたか!?」

……驚いたというよりは、心配されている。
こんな時間に突然、部屋に来たのは何か緊急事態だと思われてしまった。
しかし、ディアの姿を見たアイリの思考と動作が一瞬、停止する。

(わぁ、ディアのパジャマ姿、かっこいい……)

ようやく動き出したアイリの脳内は、目的を見失うほどにディアの魅力に支配されていた。
クールなディアに似合う、爽やかなブルーのパジャマ姿に。
この広くはない部屋も真面目な彼らしく、簡素なベッドと机と本棚くらいしかない。
ネグリジェと同じピンク色の、アイリの小さな唇から出たのは、思いもよらぬ願望の言葉。

「ディア、一緒に寝よう」
「……はい?」

単刀直入すぎるアイリのお願いに、ディアの返事が疑問形になる。