それでも心優しいアイリは、自身の恋の危機感よりも、リィフの恋を心配した。
ディアは、今まで何人もの生徒から告白されたが、一度も受け入れていないから。
ディアが、生徒を恋人として受け入れる事はありえないと知っているから。
何よりも、自分がディアと結ばれるんだという、強い決意があったから。

「リィフちゃんは、その……気持ちを打ち明ける……の?」
「うーん、そうしたいんやけど、OKしてもらえるかなぁ……」

アイリは、それには答えられなかった。
アイリだって、いくら気持ちを伝えても、ディアから確かな愛の言葉を返してもらえない。
……不安な気持ちには共感する。


結局、アイリは昼休みにモヤモヤな気持ちを増してしまい、そのまま放課後。
今日もアイリだけが、魔法の授業の補習を受ける。
いつものように、アイリはソワソワしながら教室でたった一人、ディアが来るのを待つ。
そして教卓側の引き戸が開き、ディアが教室に入ってきた……が。
ディアの様子が、なんだかいつもと違う。困ったような、緊張したような……何とも言い難い表情だ。
教卓の前に立つと、ディアは目の前の席のアイリに視線を合わせて、授業を開始する前に報告を入れる。

「今日はもう一人、補習を受ける生徒がいます」

それを聞いたアイリは一瞬、もしかしたら、またリィフなのでは、と思った。
だが、ディアが2度も不正を認める訳はないし、今は教室に生徒はアイリしかいない。

「その生徒が来たら補習を始めますので、しばらくお待ちください」

……という事は、もう一人の生徒は補習に遅刻という事になる。
本来なら遅刻の生徒を待つ事も、王女であるアイリを待たせる事もありえない。
それなのに、ここまで特別扱いをされる生徒とは誰なのだろうか。
……その時。

ガラガラガラッ!!

なぜか教卓側の引き戸が開き、慌てた様子の女子生徒が入ってきた。

「ディアさん、ごめんなさい!着替えてたら遅れちゃった……!」

その女子生徒を見たアイリは、目を限界まで開いて驚愕した。
……いや、目を疑った。
自分とそっくりの容姿で、同じ制服を着た彼女は……

「ええぇ!!?お母さんっ!?」

それはアイリの母親であり、永遠の17歳。王妃アヤメである。