いつの間にか夕方過ぎになり、ここで補習は終わった。
アイリが机の上を片付けていると、隣のリィフが話しかけてきた。

「アイリ様は、ディア先生に乗って帰るんやろ?ええなぁ~」

アイリが、魔獣の姿のディアの背に乗って登下校する様子は、この学校では周知。
今や名物のような扱いになっていた。

「うん。えっと……リィフちゃんの家は、どこなの?」
「ウチの家は城下町にあるんや」
「城下町なんだ。私のお城から近いね」

アイリの言う『私のお城』とは、アイリの自宅である『魔王の城』の事を指す。

「商店街に魔道具屋があるやろ?あれがウチの実家やねん」
「えっ、あぁ、あのお店の娘さんなんだね……!」

アイリにとって城下町は地元の商店街の感覚なので、ほぼ全ての店を把握している。
ここで、帰り支度を済ませたディアが、二人の会話に割り込んできた。

「外はもう薄暗いですから、リィフさんも一緒に帰りましょう」
「えっ!?ウチもディア先生の背に乗ってええんですか!?」

アイリは咄嗟に机の上に視線を移して、なぜか浮かない顔をしている。

「はい。リィフさんの家までお送りします」
「やったぁ!ありがとうございます!めっちゃ嬉しい、感激~~!」

大げさなリィフの喜びようを横目で見たアイリは、顔を伏せて唇を噛み締めた。
……まただ。また、変な感じがする。
ディアに他意はなく、誰にでも優しいのは分かってる。
城下町なら帰り道の『ついで』に寄れるから、何の負担もない事だって分かる。
分からないのは……ディアがリィフに優しくする度に感じる、この不快な心のモヤモヤ。

そうして3人は一緒に昇降口を出て、薄暗い校庭の真ん中まで歩く。
そこで立ち止まり、ディアが魔獣の姿に変身する。
コウモリの羽根を持つ、巨大な黒い魔犬の姿を間近で見たリィフは感激の声を上げる。

「うわ~!めっちゃカッコええ!!羽根のある魔犬ってレアなんちゃう?」

ディアは魔獣の姿になると言葉が話せないので、代わりにアイリが答える。

「え?えっと……そうなのかな……?」

アイリは生まれた時からディアと一緒に暮らしているので、見慣れてしまっている。
言われてみれば、羽根のある魔犬なんて、ディア以外に見た事がない気もする。
もしかしたらディアは、希少種の魔獣なのかもしれない。