足が地面から離れるのを感じる。

 ボクは吊り下げられたまま脱力した。

「なんだよ、威勢のいいこと言いながら、抵抗もできねぇのかよ」
「ボクはケンカをしたことがない」
「は?」
「人を殴ったり蹴ったりしたことはないんだ」
「そうかよ!」

 右拳が飛んできて、ボクの左頬を打った。

「がっ!」

 顎がガクガク痺れる。

 唇が切れたみたいで、血の味が口の中に広がった。

「でも……」

 ボクは涙目になったまま斉木を睨んだ。

 斉木の目の奥に、何か感情の揺らぎのようなものが見えた気がした。

「でも、他人の痛みはわかるつもりだ」
「はぁ? お前、なに言って……」
「やめて!」

 斉木の腕に、苺梨がしがみつく。

 ボクはそのまま地面へ投げ出された。

「無抵抗の人間に暴力を振るうなんて最低! クソったれ!」
「な…… おま……」

 苺梨のあまりの剣幕に、斉木は口をパクパクさせて後ずさる。

 ボクは口の端を腕で拭いながら、よろよろと立ち上がった。

 そして腕で苺梨を背中に庇う。

「苺梨、下がってて」
「でも!」
「いいから!」

 ボクの強い態度にビクッとした苺梨は、大人しく下がった。

「斉木くん、キミが苺梨を好きなのはわかる。でもボクも譲ることはできない」
「だからなんだよ」
「だから…… 苺梨に決めてもらう」
「え……」

 苺梨があっけにとられたような顔をした。