「なんだお前?」

 苺梨を背中に隠すように、斉木は一歩前へ出た。

「ま、苺梨」
「センパイ」
「ボ、ボク、キミに話したいことが」
「おい、ちょっと待てよ」

 斉木がボクの前に立ちはだかった。

 身長差が10センチ以上あるので、まるで巨大な壁だ。

 しかも斉木はボクシング部で長身のくせに筋肉質だ。

 吹奏楽部のボクじゃ、片手でひねり潰されるだろう。

 でも、だからといって引き下がるわけにはいかなかった。

「苺梨! ボク、やっとわかったよ。ボクが好きなのはキミなんだって!」
「センパイ……」

 苺梨が口を覆って涙目になる。

 顔は真っ赤だ。

「先輩は素敵で憧れだったけど、ボクはやっぱりキミじゃないとダメだ。だから……」
「おい、ちょっと待てっつったろーが!」

 いきなり蹴りがお腹に入った。

「センパイ!」

 苺梨の悲鳴を聞きながら、ボクは数メートルも吹き飛んだ。

 苺梨が手を添えて起き上がるのを手助けしてくれるが、ボクは苺梨を優しく押しのけた。

「センパイ?」
「ここは、ボクに任せて」
「ダ、ダメだよ、殺されちゃうよ?」

 本気で心配している苺梨を見て、ボクは吹き出してしまった。

「まさか殺されはしないよ。痛た……」

 ボクはお腹を押さえて一歩前に出た。

「殴りたかったら殴ればいい。ボクはキミには敵わないからね。でも苺梨だけは渡さない。絶対に」
「てめえ……」

 斉木はボクの襟首を掴んで持ち上げた。