「はぁ、はぁ……」

 ボクはどうしたいんだろう?

 なぜ走ってるんだろう?

 階段を駆け下り、昇降口へ。

 下履きに履き替えるのももどかしく、校舎から飛び出す。

「苺梨」

『よ、よろしくお願いします。舜右センパイ』

 顔を紅くして、潤んだ瞳でボクを見上げてきた苺梨。

『センパイ、いっしょに帰りましょう!』

 いつも元気いっぱい笑顔でボクを追いかけてきてくれた苺梨。

『ふふ、舜右センパイ、女の子とこうしたことなんてなさそうだもんね』

 イジワルな笑顔でボクをからかう苺梨。

『お姉ちゃんのこと、気になるんでしょ』
「はぁ…… はぁ……」

 ボクを見透かしたような澄んだ瞳を向けてきた苺梨。

『ちゃんと名前を呼んでもらうだけで、こんなに幸せな気持ちになれるだなんて』

 嬉しそうに微笑む苺梨。

『だからセンパイがお姉ちゃんを幸せにしてあげて。きっとお姉ちゃんはセンパイを幸せにしてくれるはずだから』

 苺梨。

 だったらキミは誰が幸せにしてくれるんだ?

 キミの幸せは、どこにあるんだ?

「苺梨!」

 体育館裏が見えてきた。

「センパイ?」
「はぁ! はぁ! はぁ……」

 両膝に手をついて、息を整える。

 目の前には不思議そうな顔をした苺梨と、その肩に手を置いた長身のイケメン―― 斉木亨司がいた。