「これには運試しがあって」

そう言うと彼はカクテルピンを手に持たせてくれた。

大きな手が姫乃の小さな手を包む。

わわっ、手を…

一緒にチェリーをピンの先に持っていき

「チェリーをカクテルの底に1度沈めてみろよ」

「こうですか?」

沈めたチェリーを引き上げると表面にキスマークみたいな形が浮かび上がった。

ハートっぽくも見える。

「おっ、上手いじゃん」

「上手いんですか?合ってます?」

「これが天使からの祝福が受けられたって事、だからエンジェルキッスっていう名前だ」

これがエンジェルキッス…

「凄いオシャレですね(笑)」

彼はショットグラスを一気に空けてこう言った。

「ちなみにカクテル言葉はあなたに見惚れて…」

「えっ?」

姫乃は真っ赤になって思わず彼の方を見た。

「…とても嬉しいです」


きっとこうやっていつも誘ってるんだろうけど、わかっていても嬉しかった。

「君さえよければ抜ける?」

彼は耳元で囁いてくる。

遊ばれる…わかっているのに…

「はい」と返事をしてしまった。

彼は会計を済ませて立ち上がると先に出てると言い、店を出た。


私はせっかく作ってもらったエンジェルキッスをゴクゴクと呑んでから彼を追うように店を出た。

一気に呑むものではないのはわかっているけど彼の後について行きたかったのだ。


彼は店の前で煙草をふかしていた。


私が出てくると携帯用の灰皿を使いポケットに入れると歩き出した。