アヤメが学校に到着したのは、昼休み直前。
堂々と正門から入り、そのまま校内を歩く。
今のアヤメは制服を着ていて、姿は亜矢と全く同じだ。
学校内に同じ人物が二人存在するという、何とも危険な状況である。

(えっと、オランがいる職員室は、2階……)

そんな危機すら感じず、アヤメは魔王の事しか見えていない。
だが、そこまで肝が据わっているのには理由がある。
アヤメは亜矢の記憶を共有してきたので、学校内の事は大体分かる。
亜矢と遭遇せずに魔王の元へ辿り着ければ問題ないと思っている。
だからこそ、亜矢のクラスの近くを避けたルートで職員室に行けるのだ。

職員室に着くと、アヤメは引き戸を少しだけ開けて中を覗く。
すると、すぐに魔王がアヤメの姿に気付いた。

「オラン…じゃない、魔王先生、ちょっとすみません……」

アヤメは生徒のフリをして職員室内に入ると、魔王の席に近付く。
魔王は顔色を変えずに、アヤメに顏を近付けて小声で話す。

「亜矢…じゃねえな。こんなトコまで来て、どうした?」

魔王は、目の前の少女が亜矢ではなくアヤメだと一瞬で見抜いた。
アヤメの服装は、濃紺のブレザーに赤のリボンとスカート。

「制服か……そそるな」
「やん、もう、オランったら……」

制服姿をジロジロと見てくる魔王に、アヤメが照れてモジモジする。
この二人は、イチャつき始めたら止まらない。

「お弁当、間違えてコランの持って行っちゃったから…はい、これ」

アヤメは、ランチバッグから弁当を取り出して魔王に渡した。
そして代わりに、コランの弁当を魔王から受け取る。
目的を果たしたアヤメは、満足げに微笑んでいる。
そして魔王は、優し気な瞳でアヤメを見ている。

「それよりも体は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。初めてじゃないもん」

アヤメと魔王との間には、すでにコランという息子がいる。
アヤメが懐妊を経験するのは二度目なのだ。
……とは言っても、一度目は400年以上前の、前世での出来事であるが。

「コランが待ってるから帰るね」
「気を付けて帰れよ」
「は~い」

本当は魔王に抱きつきたいしキスもしたいが、今は抑えた。

(学校の先生してるオランも素敵…)

ワイシャツのボタンをいくつか外し、緩いネクタイを巻いた不良っぽい教師。
そんな夫の姿を見て、今日もまた惚れ直すアヤメであった。