「そんな事じゃなくて!今日は魔王に報告があって……」
亜矢が気を取り直して言いかけた瞬間、自身に起きた異変に気付いた。
ソファに座った姿勢のまま、少しも身動きが出来ないのだ。
足を動かす事も、姿勢を崩す事も。まるで金縛りのように。
(これは、まさか……!?)
目の前の魔王を見ると、ニヤリと笑みを浮かべている。
「オレ様にしてみれば、死神のキスなんざ、ガキの遊びだ」
そう言いながら魔王は腰を上げると、亜矢の座るソファの方へと歩み寄った。
目で追うのが精一杯な亜矢の隣に、魔王は堂々と腰掛けた。
「な、なんか体が動かないんだけど……魔法?」
「クク……さぁな?」
亜矢は目の前で笑う悪魔を睨みつける事しかできない。
魔王は亜矢の強気の視線をも楽しみながら、魅惑の赤い瞳で眼前に迫る。
亜矢の白い頬に、そっと褐色の片手を添えた。
「オレ様なら三度めのキスで、亜矢を虜にしてやる」
これは完全に口説き文句だった。本気で亜矢を落としにかかっている。
亜矢と死神の毎日の『口移し』を、魔王が見逃すはずもない。
それを知りながら、死神を相手にしていないのだ。
その余裕。魔力。魅力。……逃げられる気がしない。
……よく考えてみれば、前世では完璧にアヤメを落とした魔王だ。
生まれ変わりの亜矢を落とす事など簡単なのかもしれない。
魔王に惹かれるのは自然であり必然であり、不可抗力なのだ。
言ってしまえば、自然の摂理。
……そう思うしかないほどに、亜矢は追い込まれていた。
(で……でも、おかしいでしょ、アヤメさんの目の前で……これって完全に浮気現場よ!?)
ふと、向かい側のソファに座るアヤメに目を向けると、アヤメは涼しい顔をしている。
亜矢と目が合うと、ニッコリと笑いかけてきた。
「亜矢さん、オランは上手だから大丈夫です」
「はぁっ!?な、何がっ…!?」
「あまり動かない方が…オランの牙は立派なんですよ」
誰も、悪魔とのキスの注意点なんて尋ねていない。
アヤメの発言は、もはや亜矢にとっては言葉攻めでしかない。
……夫婦で攻めてくる異常事態だ。
「亜矢……認めな。その証拠に、魔法はとっくに解いてるぜ」
「……え?」
「嫌だったら逃げな?欲しいなら…身を委ねろ」
こうやって常に選択権を与えてくるのが、魔王の巧みでずるい所だ。
(だ、だめ……)
流されていく意識の中で、亜矢は必死に自分を保った。
「どうだ、キスして欲しいんだろ?素直に言えよ」
(このまま、では……)
心臓が高鳴る。全身が熱を帯びる。
だが、強引で不毛な魔王の愛情を完全には拒めず、嫌だとも感じない。
でも、それはアヤメの魂から呼び起こされている感情だと、そう思いたい。
「欲しいって言ってみな?そうしたら与えてやるぜ?」
(あたしも魔王に……調教されてしまう!?)
心も体も抗えず、自分を見失いかけた、その時。
亜矢の頬に添えらていた魔王の手が、スッと離れた。
同時に亜矢は、一瞬で魔法が解けたように自分を取り戻した。
目の前の魔王に焦点を合わせると、意地悪そうに笑っていた。
「ククッ……冗談だぜ」
亜矢は目を丸くして、そのまま放心した。
ぼんやりと向かい側のソファを見ると、アヤメがクスクス笑っている。
……本当に、二人の冗談だったのだろうか?
いや、あの目は本気だった…と亜矢は疑いながらも安堵した。
亜矢が気を取り直して言いかけた瞬間、自身に起きた異変に気付いた。
ソファに座った姿勢のまま、少しも身動きが出来ないのだ。
足を動かす事も、姿勢を崩す事も。まるで金縛りのように。
(これは、まさか……!?)
目の前の魔王を見ると、ニヤリと笑みを浮かべている。
「オレ様にしてみれば、死神のキスなんざ、ガキの遊びだ」
そう言いながら魔王は腰を上げると、亜矢の座るソファの方へと歩み寄った。
目で追うのが精一杯な亜矢の隣に、魔王は堂々と腰掛けた。
「な、なんか体が動かないんだけど……魔法?」
「クク……さぁな?」
亜矢は目の前で笑う悪魔を睨みつける事しかできない。
魔王は亜矢の強気の視線をも楽しみながら、魅惑の赤い瞳で眼前に迫る。
亜矢の白い頬に、そっと褐色の片手を添えた。
「オレ様なら三度めのキスで、亜矢を虜にしてやる」
これは完全に口説き文句だった。本気で亜矢を落としにかかっている。
亜矢と死神の毎日の『口移し』を、魔王が見逃すはずもない。
それを知りながら、死神を相手にしていないのだ。
その余裕。魔力。魅力。……逃げられる気がしない。
……よく考えてみれば、前世では完璧にアヤメを落とした魔王だ。
生まれ変わりの亜矢を落とす事など簡単なのかもしれない。
魔王に惹かれるのは自然であり必然であり、不可抗力なのだ。
言ってしまえば、自然の摂理。
……そう思うしかないほどに、亜矢は追い込まれていた。
(で……でも、おかしいでしょ、アヤメさんの目の前で……これって完全に浮気現場よ!?)
ふと、向かい側のソファに座るアヤメに目を向けると、アヤメは涼しい顔をしている。
亜矢と目が合うと、ニッコリと笑いかけてきた。
「亜矢さん、オランは上手だから大丈夫です」
「はぁっ!?な、何がっ…!?」
「あまり動かない方が…オランの牙は立派なんですよ」
誰も、悪魔とのキスの注意点なんて尋ねていない。
アヤメの発言は、もはや亜矢にとっては言葉攻めでしかない。
……夫婦で攻めてくる異常事態だ。
「亜矢……認めな。その証拠に、魔法はとっくに解いてるぜ」
「……え?」
「嫌だったら逃げな?欲しいなら…身を委ねろ」
こうやって常に選択権を与えてくるのが、魔王の巧みでずるい所だ。
(だ、だめ……)
流されていく意識の中で、亜矢は必死に自分を保った。
「どうだ、キスして欲しいんだろ?素直に言えよ」
(このまま、では……)
心臓が高鳴る。全身が熱を帯びる。
だが、強引で不毛な魔王の愛情を完全には拒めず、嫌だとも感じない。
でも、それはアヤメの魂から呼び起こされている感情だと、そう思いたい。
「欲しいって言ってみな?そうしたら与えてやるぜ?」
(あたしも魔王に……調教されてしまう!?)
心も体も抗えず、自分を見失いかけた、その時。
亜矢の頬に添えらていた魔王の手が、スッと離れた。
同時に亜矢は、一瞬で魔法が解けたように自分を取り戻した。
目の前の魔王に焦点を合わせると、意地悪そうに笑っていた。
「ククッ……冗談だぜ」
亜矢は目を丸くして、そのまま放心した。
ぼんやりと向かい側のソファを見ると、アヤメがクスクス笑っている。
……本当に、二人の冗談だったのだろうか?
いや、あの目は本気だった…と亜矢は疑いながらも安堵した。