放課後、亜矢は魔王先生に呼び出された。
二人きりの職員室。
わざわざ、人が誰もいなくなる時間に呼び出したのだ。

「……なんでしょう、魔王先生?」

職員室に入るなり亜矢は、自席に座っている魔王を冷たく見下ろした。
一応、学校では教師と生徒の関係なので、亜矢はわざと敬語口調で話す。
魔王はニヤリ、と笑うと亜矢を見上げる。

「あんた、今日遅刻したよなあ?」

うっ、と亜矢がたじろぐ。
確かに、今日の朝はいつものごとくグリアに絡まれ、遅刻してしまった。
それを言うならグリアも一緒に遅刻したのに、何故自分だけ呼び出されたのだろうか。

「そ、それは朝、死神のせいで……」
「いい訳はいいんだよ」

魔王は何やら紙の束をドサっと机の上に置いた。

「……なんですか、これ?」
「罰として課題だ。やれ」

亜矢は再びその紙の束を見下ろした。
軽く100枚は超えていそうなプリントの束である。
そんな量の課題を目の前に困った顔をしている亜矢を見て、魔王は少し優しい口調で言う。

「明日までに出来たら、いいものやるよ」

しかし亜矢は嬉しがるどころか、ムっとして魔王を見返す。

「私を物で釣るんですか?」

魔王のくれる物と言っても、期待は出来ない。むしろ、嫌な予感すらする。
彼の言うご褒美と言ったら、『口付け』だの『妃にしてやる』だの言いそうで、むしろ迷惑だ。
だが、次の魔王の一言で、亜矢はガラっと態度を変えた。

「ヒントをやろう。『コランも喜ぶ』ものだ」
「………!!分かりました、やります!!」

この態度の変わりようは見事である。
普段からコランに甘い亜矢は、そう聞くと俄然やる気が出るのである。
自分の苦労よりも他人の喜びを優先する、という亜矢の心理を見抜いた魔王の作戦だった。

(コランくんの為にも頑張らなくちゃ…!)

そうして、目的と主旨が完全に変わってしまったものの、亜矢はその課題を持ち帰る事となった。