亜矢とグリアが出掛けてから、少し後。
マンションの亜矢の部屋のインターホンを鳴らす来客がいた。
中から玄関のドアを開いたのは、一人で留守番をしていたコランだ。

「兄ちゃん、いらっしゃいー!!」

相変わらずのコランの元気な笑顔を見下ろすも、魔王は怪訝な顔をした。

「てめえ一人か?」
「うん。アヤはどっかに出掛けた!」
「………なるほどな」

亜矢が、わざわざ時間を指定して家に来るように約束した理由が分かった。
もちろん、何かを期待していた魔王は拍子抜け以外の何でもない。
そんな魔王の心など知らず、コランは変わらず無邪気だ。

「アヤ、すっげー綺麗な服着てたけど、どこに行くのかなぁ?」
「………へぇ」

その言葉を聞いて察しのいい魔王は、さらに妬みすら感じた。
常に余裕でいた魔王であったが、最近の亜矢との夢のような時間から一転、いきなり現実を見せつけられた。
こんな事なら強引にでも記憶を覚醒させるべきだったと、悪魔らしくない自分の甘さに、今さら気付いた。




その頃、とりあえず地元の繁華街に向かう二人。

「一緒に歩いてるだけじゃ、ただの買い物みたいよね…」

そう呟く亜矢の横で、グリアは平然として答える。

「何だかんだ言って欲しがるよなぁ?いいぜ、ホラ」

グリアは片腕を突き出して来た。腕を組め、という事なのだろう。

「えっ!?なんであんたと!?絶対イヤよ、恥ずかしい!!」
「んだよ、拒否ってんじゃねえよ、テメエが誘ったんだろうが!」

腕組みを越えて、すでに1年以上も『口移し』という名の『キス』を経験済みの二人なのに。
何故か初々しい乙女の恥じらいを見せる亜矢をどう扱うべきか、グリアも少々困惑する。






『口移し』を儀式だと称するのであれば。
亜矢にとってのそれは、『デート』という名の儀式なのかもしれない。
そうだとすれば、亜矢は見落としている事がある。
儀式には、必ず『代償』を伴うという事を。


果たして、これから二人が向かう先で、何が起こるのだろうか。