自分自身を取り戻す為に。
自分の本当の心を確認する為に。
亜矢が思い付いた、衝撃的な『計画』。
それは、前触れもなく実行された。






次の休日、亜矢は朝からグリアの部屋の前に立っていた。
『死神』の表札が目立つ、玄関のドアの前で待ち構える。
相変わらず、亜矢がノックをせずとも気配に気付いたグリアが、玄関のドアを開けた。
だが…目の前に立つ亜矢の姿を見た瞬間、グリアの思考が停止した。
亜矢の服装は、短めの可愛いチュニックに、ふわふわのスカート。
完全にお洒落をしている。
まじまじと見られて、亜矢は照れて頬を少し赤く染めながら、上目遣いで衝撃の言葉を放った。

「あたしとデートして」

「…………はぁ?」

グリアの口から、思わず気の抜けたような声だけが漏れた。
最近の亜矢の言動は、まるで別人のようだと思ってはいたが。
ここまでくると、いよいよ最終段階なのか……と、危機感すら感じられる。
さすがのグリアも戸惑っているようだ。だが、気を取り直して。

「それはつまり、オレ様に惚れたと?」

これは亜矢を煽る為の、いつものふざけた調子だ。

「ええ、そうよ。だからデートして」

「…………」

グリアは何も返せなくなった。
素直すぎる亜矢に不審感を忘れて、もはや心をくすぐられる可愛らしさを感じてしまった自分が悲しい。
だが亜矢は、照れながらも、いつもの強気な表情で見上げてこう付け加えた。

「こうでも言わないと、OKしないでしょ?いいじゃない、どうせ暇なんでしょ」

グリアが断る理由は、何もなくなった。




亜矢がグリアの部屋の玄関のドアの前で少し待っていると、着替え終わったグリアが出て来た。
特別お洒落をしている訳でもないグリアの外出着を見て、亜矢は感嘆した。
顔立ちの良さは認めるが、着飾らないのにカッコいいとは、どういう事なのだろうか。

「あんたって、悔しいけど、本当にイケメンよね…本当、悔しいけど」

悔しい、を2度繰り返す亜矢に、グリアは不満そうな顔をした。

「うるせえな。事実なんだから認めろよ」

仮にもデートなのだから、一緒に歩くには釣り合わないのかも……とすら思ってしまう。
そんな不安を長く感じる間もなく、グリアが歩き出した。

「行くぜ」
「……え?」
「こういうのは男が先導するモンだろ?知らねえが」
「……え、やだ、本気でカッコいい事言わないでよ…」
「だから認めろって」