亜矢達が天界へと向かうよりも、少しだけ前。
ここは、天界の王宮。
『玉座の間』では天界の王、すなわち『天王』が玉座に座っていた。
何かの気配を感じ取った天王は、ゆっくりと顔を上げた。

「愚かな侵入者が来たようだ」

天王の座る玉座の前には、リョウが立っている。
黒衣の正装に、純白の羽根。
そして首元には、天王への忠誠の証である、十字架のペンダント。
その姿は、まさに堕天使。
リョウは天王の命令を待つ訳でもなく、天王に跪いた。

「ボクが排除します」

迷いもなく、リョウは自らそう告げた。
侵入者が誰であるか、リョウにも分かっていた。
だからこそ、リョウは自分自身の手で迎え撃とうと思った。




その頃、王宮の門を目指して歩く『侵入者』。
黒いコートに身を包み、堂々と正面から天界の王宮へと乗り込んだ、死神グリア。
だが、何かおかしい。
天界に在るべきでない存在の死神が侵入したというのに、誰も迎え撃つ者がいない。見張りの天使すらいない。
不気味なほどに王宮は静かなのだ。
まるで、グリアが来る事を静かに待ち構えているかのようだ。
王宮の正門に近付いた時、グリアは目を見張った。
閉ざされた門の前に立ちはだかる、一人の天使がいた。
グリアは歩みを止めた。
グリアの前に立ちはだかったのは、天使・リョウだ。
リョウの手には、長い柄の先に反った鋭い刃の付いた武器が握られている。
薙刀(なぎなた)に似た形のその武器は、黒衣を纏った堕天使の武器に相応しく、黒い闇のオーラを纏っていた。
全身の黒に映える、水色の髪と、純白の羽根。
変わり果てたリョウを目の前にして、グリアは一言。

「堕ちたな、リョウ」

そしてグリアも、その手に『死神の鎌』を出現させ、握った。
グリアは、ここでリョウと対峙する事になるだろうと、すでに予測はしていた。

「お前に言われたくないよ」

リョウは特に表情も感情も表さず、冷たくグリアに言い放った。

「てめえに用はねえ。用があるのはてめえの主人だ」

グリアも強く言い放つ。
グリアが天界に来た目的は、リョウを斬る事ではない。
全ての根源である天王を斬る為だ。全ての決着を付ける為に。

「ボクには、あるんだよ。侵入者は排除する。天王様の元へは行かせない」

リョウは武器を持ちかえて構えると、刃先をグリアに向けた。
グリアも動じる事なく、鎌を構えた。

「言ったよな。今度、オレ様の前に立ちはだかるなら斬ると!」
「……望む所だよ!」

先に攻撃を仕掛けたのは、リョウからだった。
こうして、かつての友であった死神と天使は、王宮の正門を舞台に、人知れず刃を交える事となった。