亜矢の部屋で夕飯を食べ終わり、約束通りに3回の『口移し』をゲットしたグリア。
だが、実際には命の力を吸い取る『口移し』は1回だけで、あとの2回は単なる『口付け』ではあったが。
亜矢の部屋の玄関から外に出て、グリアが自室に戻ろうとしたその時。
行く手を阻むかのように、グリアの目の前に人影が立っていた。
すでに薄暗いこの時間だが、視界に関係なく気配だけですぐに誰だか分かった。

(リョウ……)

声には出さず、グリアは心でそう呼んだ。
リョウが、一切の感情の読めない無の表情でグリアの目の前に立っていた。
最近はずっと目も合わせなかった二人だが、今日はあえて正面から相手を睨み返す。
そんなグリアに対し、リョウは突然、ふっと笑いかけた。
それは、いつもの愛想のいい笑顔ではない。

「亜矢ちゃんは、ボクを拒まなかったよ」

勝ち誇るかのような余裕を含んだ、リョウの笑顔。穏やかな口調。
それでいて、相手を見下すような冷たさ。
グリアの瞳に、鋭い光が宿る。だが、言葉では返さない。

「グリア、前にボクに言ったよね?『奪われる前に奪えばいい』って」

グリアはリョウの言葉が終わらないうちに歩みを進め、リョウの横を通り過ぎようとした。
リョウはグリアを目で追いながら、言葉を続ける。

「もう、お前には奪わせない。………ボクが奪う」

グリアは振り向かなかった。






黒衣を纏う堕天使となったリョウは天王を崇拝し、グリアを憎み、
そして…………
亜矢を想った。
再び、心を闇に支配されたリョウを救い出す事の出来る光となるのは……
グリアとの絆か。亜矢の想いか。
全ては、これからの運命の行き先にある。