次の日も、いつもと変わらない日だった。
いつもと変わらない朝。
いつものように亜矢も、グリアも、リョウも高校へと登校する。
だが、1つだけ大きく変わった事と言えば。
グリアとリョウが言葉を交わさなくなった。
二人の間から、一切の会話が消えた。
行動を共にする事もなくなった。
お互い、会う事を避けている訳ではない。
だが、例え互いが視界にいようとも、すぐ横を通り過ぎようとも、目を合わす事も、言葉を交わす事も一切しなくなった。
亜矢に対しては、グリアもリョウもいつもと変わらなく接してくる。
なのに、亜矢が何を聞いてもグリアはリョウの事、リョウはグリアの事について触れない。
口を閉ざし、相手の事を口にしない。
亜矢はそんな二人を見て胸の奥が苦しい程に痛むのを感じた。
今まで、亜矢が入り込む事が出来なかったグリアとリョウの絆。
それが、今は完全に消えてなくなっていた。
グリアと、リョウと、コラン。3人の力によって甦った亜矢の命。
絆の力に満ちていたはずの命が――この心が、痛い。
亜矢は自分の胸元を押さえた。

(………どうして、こんな事に……?)






ここは、天界。
天王の宮殿内にある、天王の間。
珍しく天王はカーテンの内側の玉座ではなく外に出て、一人用の小さなテーブルに腰掛けていた。
その白いーテブルの上にはティーカップと、小さな袋が1つ。
亜矢が手渡した、手作りクッキーの入った袋。
天王は袋の中から1つクッキーを取り出すと、小さくかじった。

「奪う事しか知らぬ愚かな死神よ」

その天王の口調は独り言のようで、遠くにいるグリアに語りかけるようでもある。

「私に刃を向けた瞬間から、お前は自らの鎌で絆をも切り裂いたのだ」

天王は自分の手元にあった視線をすぐ目の前に向けた。

「そうは思わぬか?」

天王が目を向けた先には、リョウが立っている。
グリアの名を耳にしても、何の反応も示さない。

「…………はい」

ただ、静かに軽く頭を下げた。
リョウの背中には、二対の羽根。
かつては呪縛によって黒く染まった両翼は、今は本来の色に戻っている。
以前と違うのは、リョウが身に纏っている正装が、天使に相応しくない深黒の色。
襟元や袖の先に細く小さな鎖の装飾が施されている。
まるで、運命の鎖に縛られたリョウの心の内を表しているようだ。
その黒衣は、闇に堕ちたリョウの心の色の象徴。
その純白の羽根は、天使である事の証。
そして、自らの意志で天王に従う事を示す心の象徴。






断ち切られた絆。心の闇へと堕ちた天使。
天王によって仕組まれ、絡まった運命の糸。
それを断ち切る刃は、今はまだ見えない。