「で、レイナちゃん。あたしに聞きたい事って何?」

テーブルに着き、ようやく落ち着いた所で亜矢は向かい側に座っているレイナに聞いた。
コランは寝室になっている亜矢の自室で眠ってしまった。
この部屋には亜矢、レイナ、リョウの三人だけだ。

「亜矢さんには婚約者がいるのに、その……どうしてグリアさんとキス……してたんですか?」

ブッ!!

ちょうど、ティーカップの紅茶を口に含んだ所だった亜矢は吹き出した。

「な、何よそれ!?あれはキスじゃないし、婚約者って一体何!?」

むせりながら一気にしゃべった為、亜矢は息を切らす。

「亜矢ちゃん、落ち着いて」

リョウは笑いながらも、さすがにレイナの大胆発言に焦っているようだ。

「亜矢さんって、魔王さんの婚約者じゃないんですか?」
「違うわ」
「じゃあ、グリアさんとは?」
「それも違うわ。あれはキスじゃなくて、『口移し』。儀式みたいなものよ」

レイナは、気が弱そうに見えて核心に迫る発言をする。
でも悪気は全くないし、純粋な心を持って言うからこそ、反応に困る。

「亜矢さんにとって、グリアさんはどういう人なんですか?」

亜矢は言葉を返せなくなった。
今、ここでそんな事を聞かれても………。
いつもみたいに、グリアの事を否定出来ない。だからと言って、素直に言えない。
なんでだろうか。こんなに返答に困るのは、相手が女の子だから?

「なんで、そんな事を聞くの?」

亜矢が口に出したのは、質問の答えではなく、疑問。
レイナはちょっと頬を赤く染めて、俯いた。

「……自分でも分からないんです。でも……グリアさんは、素敵な人だな……って」

その一言で、亜矢もリョウもレイナの心を察した。
レイナは、グリアの事が………。
気を遣ってか、リョウが急に立ち上がった。

「レイナ、もうこんな時間だからボクの部屋へ戻ろう」

リョウはレイナを連れて、部屋から出て行こうとした。
ふと、リョウは亜矢の方を振り返った。
亜矢は俯いたまま、二人の方を見もしない。

(亜矢ちゃん……)

リョウもまた、そんな亜矢を見て様々な思いを巡らせていた。