そうして、完全に外に出て庭に辿りついた時、グリアはようやく腕を解いた。
「死神、どうしたの?なんで、庭に?」
夜の時間とは言え、庭に設置された灯りによって充分すぎる程の視界。
ライトに照らされたグリアの顔。その鋭い瞳に反射した光が、不思議なくらい綺麗だ。
――なんで、そんな真剣な顔をしてあたしを見るの?
――やめてよ、調子が狂うじゃない。……ホラ、早く何か言って!
亜矢が、高鳴り始める自分の鼓動に戸惑っていると、グリアがようやく口を開いた。
「いいか、ここは魔界だぜ。誰にも気を許すな」
それは、力強い口調だった。
「特に魔王だ。ヤツは、あんたを狙ってるぜ」
ああ、そういう事か……と、亜矢は少し肩の力を抜いた。
「大丈夫よ。魔王には女の人のお相手が沢山いるみたいだし」
先程の魔王の姿を思い出しながら、亜矢は軽い気持ちで笑った。
だが、グリアは真剣な眼差しだ。恐いくらいに真直ぐで、力強い。
「そういう事じゃねえんだよ」
亜矢は思わず息を飲む。グリアは、本気で心配してくれているのだ。
「あんた、そればっかり言うのね。人を信用するなって」
グリアは言葉で何も返さない。
代わりに、亜矢の片腕を強く掴んで、引き寄せた。
向かい合う形になって、互いの視線が重なる。
亜矢は抵抗しないが、少し目を伏せた。
「それなら、あんたの事だって信用しないわよ…」
どこか上の空で、感情のこもっていない言葉。
戸惑いを隠す為の強がり。
「珍しく抵抗しねえんだな?」
グリアは亜矢の顎にそっと手を添えた。
「今日の口移し、まだよね。………早くして」
グリアは少し驚いた様子で、僅かに目を見開いた。
亜矢の方から口移しを促すなんて、初めての事だ。
『促す』というか、『早く終わらせて』というのが正しいニュアンスであるとも言えるが。
それでも、グリアにとっては充分だった。
「お姫サマの気が変わらねえうちに、頂くぜ」
ちょっとキザでふざけた言い回しも、今は受け止められるから不思議だ。
亜矢は、今なら許せる気がしたのだ。
普段は抵抗のある『口移し』でさえも。
この時間がどこかへ消えてしまわないうちに。魔法が解けないうちに。
亜矢は目を閉じた。
そっと、触れられた感触と温もり。
気のせいか、その『口付け』はいつもよりも優しいものに思えた。
再び視線を向かい合わせると、亜矢はどこか放心状態のような目でグリアを見る。
「死神が死神っぽくないわ。スーツを着てるせいかしら」
グリアはようやく、その口元に笑いを浮かべた。
「あんたも、ただの女子高生には見えねえな。ドレスのせいか?」
おかしくなって、亜矢は小さく笑った。
そんな二人の様子を瞳に映し、見下ろす男がいた。
ちょうど、ダンスの相手の女性と共にテラスに出ていた魔王。
グリアと亜矢の姿を目にしたその一瞬、目を細めた。
何を思うのか、その鋭い瞳に強い意志と野望を宿して。
「死神、どうしたの?なんで、庭に?」
夜の時間とは言え、庭に設置された灯りによって充分すぎる程の視界。
ライトに照らされたグリアの顔。その鋭い瞳に反射した光が、不思議なくらい綺麗だ。
――なんで、そんな真剣な顔をしてあたしを見るの?
――やめてよ、調子が狂うじゃない。……ホラ、早く何か言って!
亜矢が、高鳴り始める自分の鼓動に戸惑っていると、グリアがようやく口を開いた。
「いいか、ここは魔界だぜ。誰にも気を許すな」
それは、力強い口調だった。
「特に魔王だ。ヤツは、あんたを狙ってるぜ」
ああ、そういう事か……と、亜矢は少し肩の力を抜いた。
「大丈夫よ。魔王には女の人のお相手が沢山いるみたいだし」
先程の魔王の姿を思い出しながら、亜矢は軽い気持ちで笑った。
だが、グリアは真剣な眼差しだ。恐いくらいに真直ぐで、力強い。
「そういう事じゃねえんだよ」
亜矢は思わず息を飲む。グリアは、本気で心配してくれているのだ。
「あんた、そればっかり言うのね。人を信用するなって」
グリアは言葉で何も返さない。
代わりに、亜矢の片腕を強く掴んで、引き寄せた。
向かい合う形になって、互いの視線が重なる。
亜矢は抵抗しないが、少し目を伏せた。
「それなら、あんたの事だって信用しないわよ…」
どこか上の空で、感情のこもっていない言葉。
戸惑いを隠す為の強がり。
「珍しく抵抗しねえんだな?」
グリアは亜矢の顎にそっと手を添えた。
「今日の口移し、まだよね。………早くして」
グリアは少し驚いた様子で、僅かに目を見開いた。
亜矢の方から口移しを促すなんて、初めての事だ。
『促す』というか、『早く終わらせて』というのが正しいニュアンスであるとも言えるが。
それでも、グリアにとっては充分だった。
「お姫サマの気が変わらねえうちに、頂くぜ」
ちょっとキザでふざけた言い回しも、今は受け止められるから不思議だ。
亜矢は、今なら許せる気がしたのだ。
普段は抵抗のある『口移し』でさえも。
この時間がどこかへ消えてしまわないうちに。魔法が解けないうちに。
亜矢は目を閉じた。
そっと、触れられた感触と温もり。
気のせいか、その『口付け』はいつもよりも優しいものに思えた。
再び視線を向かい合わせると、亜矢はどこか放心状態のような目でグリアを見る。
「死神が死神っぽくないわ。スーツを着てるせいかしら」
グリアはようやく、その口元に笑いを浮かべた。
「あんたも、ただの女子高生には見えねえな。ドレスのせいか?」
おかしくなって、亜矢は小さく笑った。
そんな二人の様子を瞳に映し、見下ろす男がいた。
ちょうど、ダンスの相手の女性と共にテラスに出ていた魔王。
グリアと亜矢の姿を目にしたその一瞬、目を細めた。
何を思うのか、その鋭い瞳に強い意志と野望を宿して。