またしても、アイリの魔法の仕業か?と思いきや。
開いたクローゼットの中から、一人の青年が出てきた。

「魔王サマ、アヤメ様、失礼致します。王女サマをお迎えに上がりました」

そう言って礼儀正しく部屋に降り立ったのは、魔王の側近・ディア。
相変わらず、本来の姿が魔獣とは思えないほどにクールでイケメンだ。
そして、クローゼットに魔界を繋げるのが常習化している。

「もう、そんな時間か。早く連れてけ」
「ディアさん、アイリをお願いね」
「はい、お任せ下さい」

ディアは夜間だけアイリを魔界に連れ帰り、育児の代理をしている。
それは、コランが生まれたばかりの時も同じだった。
それによって、アヤメは夜も安心して眠れるのだ。
ディアはベビーベッドに近付き、笑顔で話しかける。

「王女サマ、ご機嫌はいかがですか?……はい、そうですか…はい……」

それを見た魔王が、奇妙なモノを見る目をしながらアヤメに話しかける。

「……オイ、あいつ……赤子と会話してるぞ」
「うん、ディアさん、すごいね。やっぱり魔獣だからかなぁ?」
「関係ねぇだろ」

ディアはコランを溺愛しているが、同じようにアイリにもメロメロなのだ。
そしてアイリも、ディアに抱っこされると機嫌が良くなる。
どうやら、早くも二人の相性はバッチリのようである。
そんな二人を見て、アヤメは思った。

「アイリ、もしかして将来はディアさんと……なんてね」

意外にも、それを聞いた魔王は否定しなかった。

「……並大抵のヤツよりはマシだな」

魔王もディアの事は認めている。
ディアにならアイリをやってもいいと、本気で思うほどに。

「じゃあ、コランは将来、やっぱり魔王になるのかな?」
「あいつ次第だな」

コランは、生まれながらに弱い魔力しか持っていない。
だからこそ、王位を継がせるのは酷だと思い、コランを『弟』と偽ってきた。
だが、それは魔王の主観でしかなかった。
コランが成長するにつれて、状況が変わってきたのだ。
実はコランは、内に強大な魔力を秘めている事が判明した。
コランは魔力が弱いのではない、目覚めていないだけなのだ。
一人前の悪魔を目指すコランは、いずれ魔王になる事を望むだろう。




果たして、魔界の王女、アイリの未来とは。
そして、魔界の王子、コランの未来とは……?