ここまでくると、リョウはため息しか出ない。
自身のショックだけでなく、何だかモヤモヤした落胆を感じるのは何故か。
そう、それは……グリアの事を考えたからだ。
もし亜矢の相手がグリアであれば、素直に納得できたかもしれない。

「おめでとう、亜矢ちゃん」
「え?なんであたしに言うの?アヤメさんに言ってあげて」
「えっ……アヤメさん?」
「アヤメさんに二人目の子供ができるなんて、本当に驚きよね」
「あっ…うん、そうだよね、アヤメさん…だよね!ボクも驚いたよ!!」

リョウは慌てて話を合わせるが、ようやく気付いた。
懐妊したのは亜矢ではなくアヤメだという、当然の真実に。
そうなると今までの話、全てに納得がいく。
これはまた、真実を知らずに勘違いをしたグリアだけが苦悩しているパターンだと。

「でも不思議よね。今のアヤメさんって人間じゃないのに、子供ができるなんて……」
「うん、それはボクも不思議に思うけど」

言ってしまえば、魔王も人間ではないが……。
生命の神秘とは、人智を超えた領域なのかもしれない。
そう考えた時、亜矢は人智を超えた『神』の存在を思い出した。

「もしかしたら、天真さんなら分かるのかも?」
「あ、そうだよね。アヤメさんを再生させた天王様なら…」

バタンッ!!

突然、居間の奥の部屋から物音が聞こえた。
亜矢は驚いてリョウの顏を見るが、リョウは動じていない。

「リョウくん、奥の部屋に誰かいるの…?」
「あ、もしかして……行こう、亜矢ちゃん」

亜矢はリョウの後ろに続いて、物音のした部屋へと向かう。
その部屋は寝室だ。
部屋のドアを開けると、二人の視界に映った光景は……
扉の開いたクローゼットの中から、室内へと降り立った人物の姿。

「私に何か用かな?」

それは、クローゼットの中から光臨した、天界の王。
天王ラフェル。
人間界での通称は『天真』である。