亜矢は、同じマンションの左隣、リョウの部屋を訪ねた。

「亜矢ちゃん、いらっしゃい!」

突然の来訪にも関わらず、リョウは『天使の笑顔』で亜矢を出迎えた。
お隣さんどうしなので、こういうのも日常茶飯事だ。
だが、グリアが来た時と違うのは……

「亜矢ちゃん、シュークリーム食べる?」
「えっ、うん、食べる食べるー!!」

シュークリームは、亜矢の大好物なのだ。

二人は向かい合って座り、そのテーブルの上には紅茶やクッキーが置かれている。
やっぱり女子会のノリだ。……まだ昼前ではあるが。
そして、リョウの方から気になっていた疑問を亜矢にぶつけた。

「ねえ、亜矢ちゃん…懐妊の事なんだけど」
「あ、リョウくんもその話、聞いてたのね」
「本当に懐妊したの?間違いだよね?」
「それが本当なのよ」

亜矢は、あっけらかんと答えた。
亜矢としては、『アヤメが懐妊した』という意味で答えた。
リョウとしては、『亜矢が懐妊した』という仮定で質問した。
当然、亜矢は否定するだろうと思っていたリョウは言葉に詰まった。
だがグリアに代わって真実を聞き出さねば…と、リョウは気合いを入れた。

「それで…それは、誰との子なの?」
「え?誰って当然、魔王よ」
「え、えぇぇえええ~!!??ま、魔王!?」

完全に話が噛み合っていない。
リョウは、思いがけない相手…最悪の相手の名を出されて驚愕した。
まさか、魔王と亜矢の間に赤ちゃんができるほどの仲だったなんて…。

「ちょっとリョウくん、なんでそんなに驚くの!?」
「驚くよ!だって、グリアじゃないの!?」
「なんで死神なのよ!?ありえないじゃない!」

亜矢に完全否定されてしまい、これは相手は魔王で確実だろう。
あの魔王はアヤメを手に入れたにも関わらず、亜矢にまで手を出して……。
だんだんと、驚きから沸々とした怒りまで沸き上がるような感覚だ。

「ボク、ちょっと魔王を見損なったかも……」
「気持ちは分かるけど、愛し合った結果だもの」

そこまで亜矢と魔王が愛し合っていただなんて…。