次の日は休日。
朝一番に、亜矢の家にグリアが訪れた。
いつもだったらインターホンも鳴らさずに、いきなり部屋にいる事もある。
だが今日は、グリアにしては律儀に玄関から訪れた。

「何か用なの?朝ご飯ならもう終わってるけど」
「……これ、返す」
「え?」

グリアが亜矢に差し出したのは、空の弁当箱が入ったランチバッグ。
昨日、アヤメが学校でグリアに「食べて」と手渡したものだ。
亜矢はバッグを受け取って見るが、自分のバッグではない。
なんの事だか、サッパリ分からない。

「……いつ産まれるんだ?」

グリアが、亜矢に思い切って問いかける。
亜矢はもちろん、それはアヤメの懐妊の事だろうと受け止めた。

「知らないわよ。なんせ、相手が人間じゃないから」
「……そうか」

(やっぱり、オレ……なのか)

いつも以上に亜矢が素っ気ない印象なのも、責任を取れという威圧なのだろう。
グリアは何も言えずに、そのまま玄関の外に出て帰ってしまった。
いつもだったら、口移しの一回でもお見舞いしてから去って行くのに。
よく分からないランチバッグだけ渡して帰るなんて……。

(変な死神……)

とは思うが、自分も前世の件で色々とあったので、あまり人の事は言えない。
亜矢はリビングに戻って、テーブルの上にランチバッグを置いた。
すると、コランがすぐに隣に寄ってきた。

「あ!そのバッグ、お母さんのだ!」
「え?アヤメさんの?」

亜矢は訳も分からずに、バッグの中身を確認してみる。
中には、子供用の小さな弁当箱が入っていた。
フタを開けてみると中は空で、綺麗に洗ってあるようだ。
それを覗き込んでいたコランが、また何かに気付いた。

「あ!それ、オレの弁当箱だ!」
「え?コランくんの?」

亜矢は増々、訳が分からなくなってきた。
アヤメのランチバッグの中に、空になったコランの弁当箱……。
それをグリアが持ってて、亜矢に返しにきた。
謎を解こうにも全く繋がらず、意味が分からない。

(アヤメさんが死神に、お弁当をあげたの?)

グリアは、いつも亜矢の家にご飯をたかりにくるので、アヤメが見兼ねたのかもしれない。
まぁ、そこまでなら、ありえる。
だが、グリアが食べ終えた弁当箱を、アヤメでなく亜矢に返しに来たのは何故か?
さすがにグリアが、アヤメと亜矢を間違えるとは思えない。
そういえば、今日もグリアは様子が何かおかしかった…と思い出した。

(やっぱり死神、変よね……大丈夫なのかしら)

色んな意味でグリアの挙動が心配になる亜矢だった。
だがグリアに勘違いをされて、亜矢の体こそ心配されているという事には気付かない。