その頃、グリアも同じく、自宅の中で玄関のドアを背にしていた。

(やべえだろ……アレは……!!)

亜矢に、あんな風に求められてしまっては、調子が狂う。
だが…戸惑いだけではない。
この感情は、何と表現したら良いのだろうか?
明日もまた、あんな事を言われたら、どんな顏をして『口移し』すればいい?

(はやく、何とかしねえと……!)

またもや苦悩するグリアは、自覚していなかった。
1年以上続けている、『それ』が――
儀式だと、日課だと、そんな風にしか思っていなかった、『それ』――
『口移し』の意味が、変わってきているという事実に。



その日の夜になっても、亜矢はモヤモヤとした変な感覚に襲われていた。
ベッドに顏を伏せていると、コランが心配そうにして亜矢に近付く。

「アヤ、どうしたんだ?」
「コランくん……」

亜矢は、コランの顏を見る。
魔王とそっくりの、前世の自分の息子――。
可愛くて、愛しくて、とても大切な……。
呆然とそんな事を考えていると、また、あの『衝動』が起こった。

「ねえ、コランくん……チューしよう?」
「えっ!?うん、する!!チューする!!」

コランは大喜びで、口を『タコさん』のようにして待ち構えている。
そこで、亜矢はハッと我に返った。

(なに、何言ってるの、あたし……コランくんにまで……)

先ほどのグリアの時もそうだった。
意思に反して、何故か体が『キス』を求めてしまう。
これは、何かを思い出させる。
これは、この症状は、まるで……

(アヤメさんの『つわり』と同じ!?)

だとしたら何故、自分にも起こるのだろうか?
まさか、自分もアヤメさんと同じように、かい、にん……??

(いや、まさか、まさか!?そんな訳ないでしょ!?)

亜矢が狼狽えていると、待ちきれないコランがチュっと亜矢に口付けた。
可愛い『ふいうち』攻撃である。

「えへへー!アヤ、チュー!もういっかい、チュー!!」

無邪気なコランの『チュー』攻撃を受けて、可愛らしいやら何やらで大混乱である。

「コランくん、も…もう、ダメだってば!チューは1日1回!!」
「え~いいじゃん!!アヤと、もっとチューしたい~!!」




亜矢の身に起こった『何か』の正体。
それは、アヤメとの『未知の繋がり』を証明するものであった。