確かに前例がないのなら、キスで子供ができるという説も否定はできない。

「じゃ、じゃあ…アレか?魔王のヤツも……」
「あ~、ありえるよね。魔王もアヤメさんとのキスで子供ができたのかも…」

悪魔が相手での人間の懐妊も前例がないから、それもありえる。
当然ながら、真実は全く違う。
魔王とアヤメの間に息子・コランができたのは、キスが原因ではない。
悪魔だろうと死神だろうと、それに関しては人間と変わらないのだ。

「グリア、どうするの?責任取るの?」

リョウが悪ノリして、グリアに問い詰める。
しかしグリアは真に受けて苦悩している。
今回ばかりは、グリアは相談相手を間違えたかもしれない。

「クッ……分からねえ…一体、どうしたら……」

珍しい様子のグリアを見ながら、リョウは平然とした顏でクッキーを食べている。
グリアって意外と純粋なのかも……と、新たな発見を見て楽しんでいる。

(でも、なんで、それをボクに言うかなぁ……)

リョウはグリアを苦しめたい訳ではない。
リョウだって亜矢の事が好きで、これに関してはライバルとも言える。
グリアと亜矢の仲は認めているが、天使だって嫉妬もする。
それでも、亜矢に関しての相談を持ちかけてくるグリアに悪気はない。
悪ノリするのは、ちょっとした悪戯、ささやかな仕返しなのだ。

「な~んて、きっと何かの間違い……」

リョウが言いかけた所で、グリアが突然立ち上がった。

「決めたぜ。いつまでも、このままじゃいられねえ」
「………え?」

自分の中で何かを決意したらしいグリアは、真剣な顔つきだ。
この流れで、決意したと言って、思い付くのは……

「グリア、まさか…プロポーズするの!?」
「するか!!」

そこは完全否定して、二人の会話は終わった。
リョウとしても、この件に関しては完全に否定はできない。
グリアの為にも、何とかして真実を探らなくては…と思った。