テーブルを挟んだ向かい側のソファにアヤメが座った。

「それで…アヤメさん、本当に懐妊したの?」
「はい。本当なんです。私も驚きました」

アヤメ自身が驚くという事は、これ以上何かを知る術はない。
ここは理屈抜きで、素直に祝うしかないだろう。

「とりあえず…おめでとう」
「ありがとうございます。ふふっ、嬉しい…」

何よりも、アヤメがこんなにも幸せそうなのだ。
たとえ旦那が、嫁に制服を着せて萌えるような悪魔であっても…。

「その事は、死神にも言ったのよね?」
「はい。すごく驚いてました……ふふっ」

アヤメは、あの時のグリアの反応を思い出して笑ってしまう。
学校で、亜矢のフリをしたアヤメが、グリアに告げた『受胎告知』。
だが亜矢は、アヤメが学校に行ったという事すら知らない。

「でも、ちょっと心配な事があるんです……」

幸せそうに微笑んでいたアヤメが、急に真剣な顔つきになった。
アヤメは400年以上前に、息子・コランを出産している。
一度は懐妊を経験しているアヤメでも、不安に思う事があるのだろうか?

「え、なに?あたしが相談に乗れることなら、なんでも言ってみて」
「というか……亜矢さんに影響が出るかもしれなくて」
「え……?どういうこと??」

懐妊したのはアヤメさんなのに、あたしに影響って……?
亜矢は続きを聞くのが怖くなってきた。なんだか嫌な予感がする。

「それは……うっ………」

アヤメが突然、言葉の途中で口を片手で覆った。
笑顔も消えて、なんだか苦しそうだ。

「アヤメさん、どうしたの!?」
「う……すみません……『つわり』、が……」
「えぇっ!?」

なんと、アヤメが『つわり』で苦しみだしたのだ。
当然ながら亜矢は、こういう時の対処法を知らない。