亜矢はマンションに着くと、自宅ではなくアヤメの部屋に直行した。
アヤメの懐妊の件について、はやく詳細が知りたい……
亜矢は、『魔王』の表札が掲げられたドアの横にあるインターホンを押す。
すると何の返事もないまま、玄関のドアがそっと開いた。
中からアヤメが顏だけを出して、小さめの声で話す。

「亜矢さん。今、コランがお昼寝してるの」
「じゃあ、コランくんが起きるまで、例の話を聞かせてもらっていい?」
「はい。どうぞ上がって下さい」

アヤメがドアを開けて、亜矢を中へと入れる。
亜矢は玄関に立ったまま、まずはアヤメの全身を見てチェックする。
……ピンクのエプロン姿。
エプロンの下に服は……ちゃんと着ている。
アヤメが裸エプロンでない事に、亜矢が安堵したのも束の間。
……ん?服?その服って……?

「アヤメさん、エプロンの下に着てる服って…!?」
「え?あ、コレですか?」

アヤメは、エプロンを外して見せた。
その姿を見て亜矢は一瞬、目眩がした。
あたしと同じ服…?あれ、おかしいな、鏡でも見てるのかしら……
……って!!

「それって、ウチの高校の制服よね!?」
「はい、そうですけど……え?」

アヤメは、亜矢が何故そんなに驚愕しているのか理解していない。
亜矢にしてみれば、この状況に衝撃と疑問しかない。
まず、第一の疑問。

「なんで、エプロンの下に制服なんか着てるの!?」

学校に通っていないアヤメが、制服を着ている意味が分からない。
裸エプロンと下着エプロンでは足らず、制服エプロンまで教え込ませているとは…。
どこまで、あの魔王はマニアックなのだろうか。

「これを着ると、オランが喜ぶので……」
「絶対に変態だわ、あの魔王ぉ~~!!」

一体、前世のアヤメと魔王は、魔界でどんな暮らしをしていたのだろうか。
それでもアヤメは幸せそうなので、悔しいが口出しはできない。
そして次に思い浮かぶ、第二の疑問。

「なんで制服を持ってるのよ、必要ないでしょ!?」

学校に通っていないアヤメが、制服を所有している意味が分からない。
まぁ…よく考えれば、どういう訳か人間界の教師になれた魔王だ。
魔王が、どうにかして入手したに違いない。
……アヤメに着せて、萌えるために。

「う~ん…オランがくれたので、分からないです…」
「うん、分かった、もういいわ」

とりあえず魔王が、どうしようもない悪魔なのは分かった。
アヤメは純粋なだけで、何も悪くない。
この件は置いといて、亜矢はさっさと目的を果たそうと思った。

リビングへと通されて、亜矢はソファに座る。
相変わらず、魔界のアンティーク調の家具で統一されたこの部屋は優雅だ。
魔法で空間を広げているので天井も高く、広々とした開放感がある。
少しくらい大きな声を出しても、コランが寝ている寝室まで響かないだろう。
教師である魔王は帰りが遅く、まだ帰宅していない。
広いリビングには、亜矢とアヤメの二人きりだ。