「ただいま~」
誰もいない家に蓮雅が声を掛け、靴を脱いで中に入る。
「・・・構っていい?」
後ろから蓮雅にむぎゅっと抱き着くと、蓮雅は俺を見て苦笑した。
「お米だけ炊かせて?」
「・・・む」
まぁしょうがないか・・・。
時間が無くなって蓮雅が焦るのは見たくない・・・。
料理担当は蓮雅と俺のほかに想蘭がいるし、最悪想蘭に全部任せればいい。
「・・・っとはい、準備オッケー」
炊飯器のボタンを押し、蓮雅はタオルで手を拭く。
「・・・で、添伽はなにしたいの?」
ってかさ、と蓮雅が首をかしげる。
「添伽って妹いたの?」
「・・・妹?」
「なんか構いたいって・・・家出したときに心残りだったのが妹・・・的な?」
「・・・はは」
成人しても妹離れできてない男って・・・。
きっしょ。
「違う。兄はいるから跡継ぎは問題ないし、元気だし」
ぼそっと言うと、蓮雅は少し悲しそうに俺の頭を撫でた。
「・・・蓮雅?」
「いや・・・なんか可哀想だな、って・・・だって自分は必要とされてないって思ってるから家出したんでしょう?」
蓮雅と最初に出会ったとき、これは独り立ちだと言ったのを思い出す。
「・・・わかった?」
「うん。・・・違った?」
自分で考えて・・・蓮雅は俺のコトを見てくれてるのか。
「合ってる。わかっちゃったかー・・・」
「なんかごめんね?知られたくなかった?」
「・・・蓮雅に知られて嫌なコトなんてない」
たとえば、俺が蓮雅に抱いている感情とか・・・。
「ん-・・・」
どうすれば蓮雅が俺のモノになるのか。
それが分からないんだよな・・・。
「・・・蓮雅ってどんな男がタイプ?」
「タイプ?」
「・・・タイプ。どんな性格、とか・・・こんなことができるー・・・とか?」
「あ・・・そうだね」
蓮雅は少し悩むようなしぐさを見せた後、自分で満足したような答えが出たのか俺を見て笑みを浮かべた。
「好きな人がタイプかな」
「好きな人?」
「そう。好きな人が自分の好ましいタイプだから、好きなんでしょう?」
「好きな人?」
「え?・・・う、うん・・・」
「好きな人?」
「て、添伽・・・?」
「好きな人?」
「ど、どうしちゃったのっ・・・あ!」
好きな人、しか繰り返さない俺の肩をゆすり、蓮雅は大きな声を上げた。
「さては添伽・・・好きな人いるね?」
「なっ・・・」
「好きな人で固まるくらい初心(ウブ)なのかぁ・・・可愛いね」
「いや違うし・・・」
別に間違ってはないけど・・・。
そもそも俺が固まったのは、蓮雅に好きな人がいる可能性を考えてなかったからだし。
そっか・・・蓮雅も高校生だ。
それにありえないほど美人だし。
高飛車を出もなく気さくだし。
好きな人どころか彼氏の1人や2人・・・。
いや、3人4人・・・10人くらい余裕で超えてるか・・・。
「・・・蓮雅、今好きな人いる?今彼氏いる?」
「今好きな人?いないけど・・・彼氏もいないよ」
「じゃあ今まで彼氏何人いた?」
「な、何人っ・・・?いないよ、いたことないからっ!」
・・・嘘でしょ。
こんな可愛い子放っておく奴いる?
なんで・・・いや、告白はしてるだろうな・・・。
きっと蓮雅が断ってるんだ。
「そのタイプって奴は今のところいないの?俺たちの中だったら誰が一番いい?そもそも誰かと付き合いたいと思う?将来的には・・・」
「ちょ、ちょっとストップ。えっと、タイプの人は今のところいないかな・・・タイプの人が現れたら付き合いたいかな。でもみんなの中で一番を選ぶのは・・・」
「そこをなんとか。今の気分でいいから」
「えー・・・」
押しに弱いのか、蓮雅は少し黙ってから口を開いた。
「気分悪くしない?」
「しない」
「ホント?」
「ホント」
蓮雅の問いかけに即答すると、蓮雅は諦めたのか息ををついて、意を決したように俺を見る。
「・・・その・・・一番・・・今までで出会った人の中で、タイプに近いかもって思った、のは・・・」
「思ったのは?」
俺じゃなかったらショックは受けるけど・・・。
でも、蓮雅が選んだ奴を見習おう、とは思える。
「・・・想蘭(そらん)、かな」
「・・・想蘭?」
あの可愛いの?
どこか裏がありそうな一番怖い奴?
「・・・どんなトコが好きなの」
「私は決して女子としても人間としても可愛いタイプじゃなくてどちらかというとかっこいいタイプだから・・・」
自分と正反対の奴がいい、ってことか。
じゃあ甘えたりして蓮雅に可愛いと思ってもらえればいいんだよね?
背は玖音(くおん)に続く高身長だけど、ギャップってコトでいい・・・と思う。
いいもん、蓮雅を最終的に手に入れるのは俺だし。
勝利の女神?は俺に微笑むんだし。
「じゃあ(けが)されてはないんだね?」
「汚され・・・?どういうコト?」
「意味知らないならいい。一番は俺が貰うんだもんね」
「ねぇ、だからなに・・・?」
高校生でアレ(●●)の知識がないのか・・・仕方ない、の?
でもそれは?
俺が初めてを奪えちゃうってことだもん。
そっちのほうがずっと、ずーっといい。
目に白い首筋が映る。
ヤバ・・・欲情、してる・・・。
・・・っごめん、蓮雅・・・。
本能のせい、だからっ・・・。
「・・・っん!」
首筋を下から上へ、唇でなぞる。
顎の下まで来て次は舌でなぞって上から下へ。
「ひゃ・・・・ってっ添伽っ?!」
服から出て絶妙に見えるところに吸い付くと、蓮雅は肩を震わせて甘い声を上げた。
「これ以上は、まだ・・・我慢する、から・・・」
心の中で『多分ね』と呟いて首筋に顔をうずめる。
その時、俺を責めるようなドンドン!音がリビングに響いた。
「あっ・・・たっだいま~!」
最初に想蘭の声が聞こえ、続いて、
「・・・ただいま」
「ただいま~」
玖音と魅蕾(みらい)の声も。
仕方ない・・・ココまでか。
最後に蓮雅を持ち上げて向かい合い、額と頬にキスを落としてソファを立った。
「・・・続きはまた、ね?」
「ね、ねぇっ添伽・・・!これ以上は我慢するって言ったでしょっ・・・?」
「ん・・・?あ、ごめん・・・でもまだセーフでしょ」
あっけらかんと言って見せると、蓮雅は不満そうにぷくっと頬を膨らませてからリビングに入った。
「さ、ご飯作るよー。想蘭、手洗って準備できたらキッチン来てね~玖音と魅蕾は洗濯物入れて畳んでくれる?」
「「「了解」」」
見事な団結力を見せつけるような返事に蓮雅が微笑み、エプロンを手に取って身に着ける。
「さて、今日は・・・お好み焼きだね!大きい机に鉄板置いてみんなで焼こっか」
重たそうに鉄板を持ち上げた蓮雅を止め、代わりに持つと蓮雅はありがとう、と言ってボウルを持ってきた。
「みんなで食べるご飯は美味しいからね」
嬉しそうに笑い、材料を持ってくる蓮雅の後ろ姿を見つめる。
「蓮雅・・・」
名残惜し気な声が出て、改めて俺が蓮雅にどれだけ惚れてるか思い知らされた気がした。
〈side 添伽〉