〈side 添伽(てんか)
俺は昔から愛を受け入れなかった。
そもそも俺を愛してくれる奴なんていなかったし、そんな奴必要ないと思っていた。
だから家を出ることができたんだ。
少しでも愛を望んでいれば、『この家に居ればまだ愛を貰えるチャンスはある』なんてバカなことを考えるから。
そんな絶対にありえないような夢を、見るのが大嫌いだった。
一緒に家出をした想蘭(そらん)玖音(くおん)魅蕾(みらい)も俺と同じだった。
でも現れた。
現れてしまった。
『一緒に住もう』と。
そう提案してくれた少女が。
蓮雅(れんが)と名乗る少女は誰もが振り向くほどの美貌を持っていた。
腰まで伸びた薄紫色の長髪はスポーツ女子っぽく高い位置で1つに纏めていて。
情熱を象徴するような大きな目は鮮血みたいに濃い赤色。
高嶺の花、が一番合うような容姿をしているのに優しく気さくで、こいつが欲しいと思ってしまった。
これが運命なのか。
俺は『ツンデレ』というキャラだったが、前までの比率が逆転した。
蓮雅と出会う前は『ツン100%、デレ0%』。
蓮雅と出会ってからは『ツン5%、デレ95%』になった。
自覚はあるんだ。
自分が心底蓮雅に惚れてると。
他の3人も蓮雅に一目ぼれしているんだと。
4人とも、容姿じゃない。
その澄み切った心を好きになった。
俺たちは顔が整ってるけど、そんなこと関係なしに蓮雅は接してくれた。
そんな蓮雅が初対面で愛おしく思った。
「ただいま~」
俺以外の3人がアルバイトに行き、俺は1人家でぼーっとしていた。
そんなときに聞こえた蓮雅の声。
あぁ・・・もうこんなに時間がたってたのか。
気付くともう夕方で、ぼーっとする前に買い物に行ってよかったと思う。
「あ、添伽!ただいま・・・ってもう買い物行ってくれたの?」
「・・・暇だったから」
「そっかそっか、ありがとう。じゃあちょっと行きたいところがあるから付き合ってくれる?」
これはそういう意味じゃない。
付き合ってというのは・・・一緒に来てほしいというコトで。
変な勘違いされたら蓮雅も迷惑なはず。
「・・・わかった。帰ったら構わせて」
そもそも俺はたくさん蓮雅に構わせてもらえるように買い物をしてきたんだから。
「いいよ。じゃあ準備してくれる?」
そう言いながら蓮雅はバスケットを持ち出した。
大きめの、洋菓子がたくさん入ったバスケット。
「・・・どこ行くの」
「ふふっ内緒!」
尋ねた俺に微笑み、蓮雅は外に出る。
それから数分歩いて、蓮雅は1つの建物の前で立ち止まった。