「・・・ねぇ」
みんなで廊下を歩ているとき、添伽が低い声を出す。
廊下で横一列になって歩いてたら邪魔だから、じゃんけんで並び方を決めてもらったんだ。
真ん中に私、右に魅蕾、左に添伽、後ろに玖音、そして前に想蘭。
隣になれて魅蕾と添伽は喜んでたし、玖音は『蓮雅の背中を守れるなんて嬉しいな』、想蘭は『だいたい僕が行きたい店行けるってコトでしょ~?』って言ってた。
うぅ、2人の寛大な心に感謝するよ・・・。
「あ、そこ入んない?」
前を行っていた想蘭が3年の教室を指差す。
「いいね、入ろ」
私が想蘭に続いて教室に入ると、見知った顔が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ・・・お、蓮雅」
「葵夜先輩!来ちゃいました」
てへっと笑って彼を見る。
この先輩・・・葵夜先輩とは、去年からの付き合いだ。
3年でモテ男の葵夜先輩は爽やかな人で、タイプ的には零亜だけど、キラキラの笑顔で女の子を落としたりはしてない。
まぁ、常識人枠に入る人だ。
「ありがとう。えっと、個室にする?目立ってるよ」
「ん、助かります!でも個室、空いてますか?」
「大丈夫。5人用の部屋はちょうど空いてるから」
そう言っていい笑顔を見せてくれた葵夜先輩。
「じゃあ今日は俺がメイドちゃんの専属執事になるよ」
メイドちゃん、というのは私に対する葵夜先輩の呼び名だ。
葵夜先輩はサッカー部の部長で、私はサッカー部のマネージャーをしている。
葵夜先輩が副部長だった去年から・・・つまり、私が1年の頃から専属のマネージャーに任命されたのだ。
それからたくさん仲良くしてくれて、困ったらいつも助けてくれるんだよ。
だからメイドちゃんって呼んでるっぽい。
たしか去年の体験入部では、サッカー部のマネージャーに来た時『俺が3年になって部長任された時に仕事に困んないようにって部長から副部長やるように言われたんだよね。キミがマネージャーになって手助けしてくれたらなぁ』って葵夜先輩に言われたのだ。
明らかに演技っぽかったけど、確かにサッカー部の部長さんは考えてるなぁと感心してマネージャーになるコトを決めたんだ。
「それではお嬢様。・・・お嬢様、そちらの方は・・・」
葵夜先輩は今気づいた、というかのように私の背後を見る。
・・・いやいや、『5人用の部屋』って確かに言ってたよね?
「ん?・・・親戚のお兄ちゃんたち。大学生だよ」
首をかしげて見せると、葵夜先輩はボソッと『・・・害虫が引っ付いてる』と言っていたけど、ちょーっと聞こえなかったなぁ?
「では改めましてお嬢様と虫ケラ共様。こちらへどうぞ」
・・・うん、聞かなかったことにしちゃ駄目・・・だよね?
「虫ケラってお客に大丈夫?」
責めているわけではないと柔らかな声で、幼児の疑問のように訊いてみる。
「いざとなったら守ってくれるでしょう?なにせ蓮雅の特技は・・・」
二ヤリ、と怪しく笑った葵夜先輩に危機感を覚える。
「ちょ、言わないで・・・!あと口調崩れてるし!」
お嬢様&敬語か蓮雅&タメ口か片方にしなよ!
蓮雅&敬語って・・・なんか女子から人気ありそうだけど!こんな美少年に名前呼ばれたらキュン!かもしれないけど!!
「特技は・・・」
もう一回言わなくてもいい!
「隠蔽、ですもんね?」
・・・あ、もうこれ駄目だ、諦めよ。
「・・・関係者150人以内ならもみ消せるけど。問題は起こさないでください」
「蓮雅こそタメ口だったり敬語だったり忙しいね」
小さく笑った葵夜先輩はもうお嬢様&敬語をやめたらしい。
「言わないでって言ったのに・・・」
特技が隠蔽ってなに!
中二病かよ!私は健全な高校生ですっ!!
「蓮雅が泣きそうな顔で『なかったことにして・・・?』って上目遣いされたらイチコロだもんね」
「うっ・・・なんか私、いろんな人誑かしてるみたいじゃない?」
私はそんなコトしてな・・・してるっちゃしてるけど。
いや、大事な人が大変な目に遭ってたら隠蔽して助けようと思うでしょ?!
思わない?!私が異常なの?!ショッキングーぅ。
「そんなトコも好きだけどね」
ふふっと大人っぽく笑った葵夜先輩に苦笑すると、「こっちだよ」と手を引かれた。
「えっと・・・」
「個室は隣の部屋になってるんだ」
1度教室を出て、隣の大きな教室に入る。
その教室の中は発泡スチロールで仕切られていた。
「ここが蓮雅たちの部屋ね。どうぞ」
ドアとして開け閉めできるスチロール部分を開け、手を中に向ける葵夜先輩。
「・・・わ、すごい、ちゃんとしてる」
スチロールの中にはテーブルが並んでいて、椅子も人数分置いてある。
「じゃあさっそく注文を聞きたいんだけど・・・」
コテンを首を傾げ、メニュー表を指差す葵夜先輩に頷いて、みんなにメニューを見せようとして・・・。
・・・固まった。
「僕が蓮雅の隣だよ~」
「俺が1番蓮雅も安心だと思うがな」
「・・・俺が蓮雅と1番仲いい」
「え、マウント?やっぱり爽やかな年上が人気でしょ」
みんなが席順で争っている。
添伽なんて玖音の胸ぐらを掴み上げ、想蘭に止められていた。
「はぁ・・・じゃあじゃんけんにしてよ・・・」
じゃんけんが1番平和。
運ゲーだから公平かどうかは別として、殴り合いよりはずっといいはず。
「えー・・・まぁ、蓮雅のいうコトだから・・・」
「そうだな。じゃあ行くぞ」
玖音が手を出し、みんなも真似してグーを真ん中に出す。
「じゃんけん・・・」
──ポン!
「やったね、やっぱり俺蓮雅の運命なんだわ」
勝ったのは魅蕾。
私の右には魅蕾、左は壁、前には想蘭、玖音、添伽が並んで座る。
「・・・決まった?じゃあ蓮雅はカフェオレにスコーンでいい?ジャムはストロベリーとブルーベリー?」
「はい、よろしくです葵夜先輩」
「はい、じゃあ虫ケラ共様たちは?」
虫ケラ共と直す気はないのか、葵夜先輩はいっそ清々しい笑顔でみんなに問いかける。
「「ブラック珈琲」」
「・・・フラペチーノ」
「俺はカフェオレで」
想蘭と玖音がブラック。
添伽がフラペチーノで魅蕾が私と同じカフェオレ。
「家庭科室で作ってくるから待ってて」
そっか、反対側の隣には家庭科室があるからそこで珈琲淹れたりするのか。
一礼してから部屋を出ていく葵夜先輩を見送る。
「・・・あのさ」
ふいに添伽が口を開き、みんながそっちを見た。
みんなで廊下を歩ているとき、添伽が低い声を出す。
廊下で横一列になって歩いてたら邪魔だから、じゃんけんで並び方を決めてもらったんだ。
真ん中に私、右に魅蕾、左に添伽、後ろに玖音、そして前に想蘭。
隣になれて魅蕾と添伽は喜んでたし、玖音は『蓮雅の背中を守れるなんて嬉しいな』、想蘭は『だいたい僕が行きたい店行けるってコトでしょ~?』って言ってた。
うぅ、2人の寛大な心に感謝するよ・・・。
「あ、そこ入んない?」
前を行っていた想蘭が3年の教室を指差す。
「いいね、入ろ」
私が想蘭に続いて教室に入ると、見知った顔が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ・・・お、蓮雅」
「葵夜先輩!来ちゃいました」
てへっと笑って彼を見る。
この先輩・・・葵夜先輩とは、去年からの付き合いだ。
3年でモテ男の葵夜先輩は爽やかな人で、タイプ的には零亜だけど、キラキラの笑顔で女の子を落としたりはしてない。
まぁ、常識人枠に入る人だ。
「ありがとう。えっと、個室にする?目立ってるよ」
「ん、助かります!でも個室、空いてますか?」
「大丈夫。5人用の部屋はちょうど空いてるから」
そう言っていい笑顔を見せてくれた葵夜先輩。
「じゃあ今日は俺がメイドちゃんの専属執事になるよ」
メイドちゃん、というのは私に対する葵夜先輩の呼び名だ。
葵夜先輩はサッカー部の部長で、私はサッカー部のマネージャーをしている。
葵夜先輩が副部長だった去年から・・・つまり、私が1年の頃から専属のマネージャーに任命されたのだ。
それからたくさん仲良くしてくれて、困ったらいつも助けてくれるんだよ。
だからメイドちゃんって呼んでるっぽい。
たしか去年の体験入部では、サッカー部のマネージャーに来た時『俺が3年になって部長任された時に仕事に困んないようにって部長から副部長やるように言われたんだよね。キミがマネージャーになって手助けしてくれたらなぁ』って葵夜先輩に言われたのだ。
明らかに演技っぽかったけど、確かにサッカー部の部長さんは考えてるなぁと感心してマネージャーになるコトを決めたんだ。
「それではお嬢様。・・・お嬢様、そちらの方は・・・」
葵夜先輩は今気づいた、というかのように私の背後を見る。
・・・いやいや、『5人用の部屋』って確かに言ってたよね?
「ん?・・・親戚のお兄ちゃんたち。大学生だよ」
首をかしげて見せると、葵夜先輩はボソッと『・・・害虫が引っ付いてる』と言っていたけど、ちょーっと聞こえなかったなぁ?
「では改めましてお嬢様と虫ケラ共様。こちらへどうぞ」
・・・うん、聞かなかったことにしちゃ駄目・・・だよね?
「虫ケラってお客に大丈夫?」
責めているわけではないと柔らかな声で、幼児の疑問のように訊いてみる。
「いざとなったら守ってくれるでしょう?なにせ蓮雅の特技は・・・」
二ヤリ、と怪しく笑った葵夜先輩に危機感を覚える。
「ちょ、言わないで・・・!あと口調崩れてるし!」
お嬢様&敬語か蓮雅&タメ口か片方にしなよ!
蓮雅&敬語って・・・なんか女子から人気ありそうだけど!こんな美少年に名前呼ばれたらキュン!かもしれないけど!!
「特技は・・・」
もう一回言わなくてもいい!
「隠蔽、ですもんね?」
・・・あ、もうこれ駄目だ、諦めよ。
「・・・関係者150人以内ならもみ消せるけど。問題は起こさないでください」
「蓮雅こそタメ口だったり敬語だったり忙しいね」
小さく笑った葵夜先輩はもうお嬢様&敬語をやめたらしい。
「言わないでって言ったのに・・・」
特技が隠蔽ってなに!
中二病かよ!私は健全な高校生ですっ!!
「蓮雅が泣きそうな顔で『なかったことにして・・・?』って上目遣いされたらイチコロだもんね」
「うっ・・・なんか私、いろんな人誑かしてるみたいじゃない?」
私はそんなコトしてな・・・してるっちゃしてるけど。
いや、大事な人が大変な目に遭ってたら隠蔽して助けようと思うでしょ?!
思わない?!私が異常なの?!ショッキングーぅ。
「そんなトコも好きだけどね」
ふふっと大人っぽく笑った葵夜先輩に苦笑すると、「こっちだよ」と手を引かれた。
「えっと・・・」
「個室は隣の部屋になってるんだ」
1度教室を出て、隣の大きな教室に入る。
その教室の中は発泡スチロールで仕切られていた。
「ここが蓮雅たちの部屋ね。どうぞ」
ドアとして開け閉めできるスチロール部分を開け、手を中に向ける葵夜先輩。
「・・・わ、すごい、ちゃんとしてる」
スチロールの中にはテーブルが並んでいて、椅子も人数分置いてある。
「じゃあさっそく注文を聞きたいんだけど・・・」
コテンを首を傾げ、メニュー表を指差す葵夜先輩に頷いて、みんなにメニューを見せようとして・・・。
・・・固まった。
「僕が蓮雅の隣だよ~」
「俺が1番蓮雅も安心だと思うがな」
「・・・俺が蓮雅と1番仲いい」
「え、マウント?やっぱり爽やかな年上が人気でしょ」
みんなが席順で争っている。
添伽なんて玖音の胸ぐらを掴み上げ、想蘭に止められていた。
「はぁ・・・じゃあじゃんけんにしてよ・・・」
じゃんけんが1番平和。
運ゲーだから公平かどうかは別として、殴り合いよりはずっといいはず。
「えー・・・まぁ、蓮雅のいうコトだから・・・」
「そうだな。じゃあ行くぞ」
玖音が手を出し、みんなも真似してグーを真ん中に出す。
「じゃんけん・・・」
──ポン!
「やったね、やっぱり俺蓮雅の運命なんだわ」
勝ったのは魅蕾。
私の右には魅蕾、左は壁、前には想蘭、玖音、添伽が並んで座る。
「・・・決まった?じゃあ蓮雅はカフェオレにスコーンでいい?ジャムはストロベリーとブルーベリー?」
「はい、よろしくです葵夜先輩」
「はい、じゃあ虫ケラ共様たちは?」
虫ケラ共と直す気はないのか、葵夜先輩はいっそ清々しい笑顔でみんなに問いかける。
「「ブラック珈琲」」
「・・・フラペチーノ」
「俺はカフェオレで」
想蘭と玖音がブラック。
添伽がフラペチーノで魅蕾が私と同じカフェオレ。
「家庭科室で作ってくるから待ってて」
そっか、反対側の隣には家庭科室があるからそこで珈琲淹れたりするのか。
一礼してから部屋を出ていく葵夜先輩を見送る。
「・・・あのさ」
ふいに添伽が口を開き、みんながそっちを見た。