「えっ・・・なに・・・?」
私・獅堂蓮雅(しどうれんが)は買い物帰り、路地裏で4人の影を見つけてしまった。
成人男性くらいの体格の人が4人。
みんなパーカーのフードや帽子を深く被っていて、顔は見えなかった。
「ね、ねぇっどうしたの?家族は・・・?」
あぁ、私の悪い癖だ。
知らない人も拾ってしまう悪い癖。
「・・・」
帽子から銀色の髪がのぞく人が私に顔を向ける。
口角は上がっているけど、オーラは冷たかった。
こっちに来るなと。
話しかけるなと。
そう言っているのが伝わってきて・・・。
「・・・っ、」
思わず引き返そうとしたけど私はもう一度話しかけた。
「寒いよね?大丈夫・・・?」
そう尋ねると、黒いパーカーを着た人が口を開いた。
「・・・失せろ」
う、失せろって・・・い、いや、私は負けないよ・・・!
気難しい子供もたくさん話しかけて、お菓子を上げたりしたら懐いてくれたもん・・・!!餌付けだけど。
「なんでここにいるの?4人は・・・兄弟?」
質問をすると、帽子から銀髪が覗く人が短く答えた。
「・・・友人。家出」
この質問に答えれば私が去ってくれると思ったんだろう。
でも私もそこまで甘くないぞっ・・・!
「家出したの?じゃあ私の家おいでよ!」
そう提案した私にみんなが固まる。
「私、獅堂蓮雅。高2だよ、みんなは・・・?」
尋ねると、やっと4人がこっちを見てくれた。
フードや帽子をずらし、私の顔を見る。
目元だけが見えて、目が合う。
その瞬間、4人は衝撃を受けたように勢いよく立ち上がった。
「僕飛翔想蘭(ひしょうそらん)!よろしくね蓮雅!」
えっ・・・名前呼び・・・雰囲気も変わった・・・?
「俺は冬萩玖音(とうしゅうくおん)だ」
夕渚添伽(ゆうなぎてんか)
「俺は八雲魅蕾(やくもみらい)だよ」
みんなすごい気さくになってる・・・。
「えっと・・・私の家来る?」
「行く行く~!」
「蓮雅がいいなら・・・」
「・・・行く」
「行きたいな、いいの?」
みんながOKしてくれて、私はこっちですと先導して家まで歩いて行った。
「そういえば家出って・・・みんな何才?ってか名前呼び捨てでいい?」
「全員19才の高卒だ。名前は好きなように呼べばいい」
「敬語もいい?」
「タメ口でいい」
クールなオーラを纏う玖音と話していたところ、気だるげでツンデレっぽいオーラの添伽が入ってきた。
「ありがとう!でも家出ってなんで?」
「成人してるから家出、よりも独り立ち、かなぁ~?」
可愛い癒しオーラを放つ想蘭がニコニコしながら言って、私はなるほど・・・と頷いた。
「まぁ、親離れ、ってトコだよ」
爽やかな王子系オーラを纏う魅蕾も入ってきて、私は慌てて一番前に戻った。
・・・戻ろうと、した。
「・・・俺の隣でいいよね?」
添伽・・・?
いきなり添伽に腕を掴まれ、私はバランスを崩したところで抱き留められた。
え、ツンデレじゃないの?
一応そんな感じだけどツン5%にデレ95%くらいの割合?
ソレってツンデレ?
ツンデレデレデレ?・・・くらい?
その発想自体が間違ってる、とか・・・?
「・・・あ、ココが私の家だよ」
人の家と比べると大きい、だろう大きさの洋館を指差して中に入る。
「どーぞ遠慮なくくつろいで~」
ニコッと笑って、私はキッチンに買い物袋を置きに行った。
もどると、みんなソファに座っている。
ふふ・・・なんか可愛いかも。
「この家広いね?」
「両親がお金持ちだったから・・・あ、両親は事故で亡くなったから今はいないけど・・・」
魅蕾の問いに答えてそこまで言ったとたん、私はある提案を思いついた。
「みんな、行く当てはあるの?」
そう訊くと、みんな顔を見合わせてから俯いた。
なるほど・・・ないんだね。
そりゃさ、小学生じゃないから『家出した!おばあちゃん()行こう!』とはならないだろうけどさ。
ならいいか・・・。
「私、一人暮らしなの!一緒に住もう?」
そうだ、これがあった!
「家も広いし、個室も全員分あるよ!アルバイトも何個か掛け持ちしてるし、生活費も無駄遣いしなければ大丈夫!」
「・・・住んでも、いいのか?」
「私から言ったんだから当たり前!」
ニッコリして頷くと、魅蕾が次はニッコリした。
「じゃあ済ませてもらうお礼に俺たちがアルバイトするよ。だから蓮雅はアルバイトやめて?学業に専念して」
笑ってるけど笑ってない、無言の圧を感じて私はみんなにお願いしてみた。
「じゃあ今私がやってるアルバイト、だれかやってくれる?店長、人手不足だって言ってたから」
「りょーかい!なんのアルバイト?」
私のお願いに快くOKしてくれた想蘭に指を数えながら教える。
「ええっと・・・パン屋、カフェ、本屋、ドーナツ屋、かな」
「4つもやってたの?!まぁいいよ、4人で1つずつやって・・・時間があれば時給高いアルバイト探そう」
わぁ・・・助かる。
これで多分一般家庭ぐらいの生活はできると思う・・・!
「じゃあ次は家事の仕事を割り振ろう!」
「えっ・・・家事は私がやるよ!」
「みんなでやる」
想蘭の仕切りに慌てて言うと、添伽に腕を掴まれた。
「じゃあ決めてくよ~蓮雅は料理できる?」
「もちろん!」
「じゃ~あ~・・・料理担当は蓮雅、僕、添伽ね。選択担当は玖音と魅蕾。掃除担当は僕と玖音と魅蕾で、買い物担当は蓮雅と添伽!・・・あ、これじゃ蓮雅と添伽がどっちも一緒になっちゃうね。じゃあ玖音か魅蕾を・・・」
「・・・変えないで。そのままがいい」
想蘭が再び考え始めると、添伽はそう口をはさんで「終わり」と締めくくった。
「じゃあ申し訳ないけど・・・お願い、ね?」
躊躇いながら頭を下げると、玖音が小さく笑った。
「コッチが住まわせてもらってるんだから、これくらい当然だ」
いやいや・・・これを『当然』と言えるのがすごいよ。
だって自分勝手な人だったら『住んでいいの?!やったー、楽できるぅ!!』とか言って一日中ソファでゴロゴロしてるでしょーに。
「ん-・・・でもなぁ・・・」
そこで私はあることに気づいてしまった。
「・・・どうしたの」
添伽が私の腕を握る手に力を籠める。
「そんな大したことじゃないんだけど・・・私は今まで学校から帰ったらすぐアルバイトで・・・っていう生活を送ってきたからね。アルバイトはなくなって家事も分担されたら暇だなー・・・と」
さりげなーく家事分担をやめてもらおうと言うと、添伽から予想外の解決策が出てきた。
「じゃあ俺に構えばいいじゃん。一日最低でも3時間は構って。アルバイトとか忙しかったら一緒に寝る」
え・・・っと?
添伽は私に構ってほしい(意訳)ってことでいいのかな?
「じゃあたくさん構ってあげるね」
成人して独り立ちとはいえ、もしかしたら幼少期は誰にも甘えられない環境で育ってきたのかもしれない。
そうだったら私がいっぱい甘やかしてあげないとね!
「・・・やっぱ構わなくていい。俺のほうから構うから」
「・・・ん?私、両親から甘やかされて生きてきたよ?」
そんな可哀想な環境じゃなかったから『誰かに甘やかされたい・・・』なんて望みはないんだけど。
「俺が構いたいの」
フム・・・?分かったような分からないような。
もしかしてアレかな?
お兄ちゃんが久しぶりに再会した妹を甘やかしたくなっちゃう感じ?
それともアレ?
あの・・・なんだっけ、ホームシック?
それは私が添伽を甘やかす時の話か。
「え~蓮雅可哀想だよ~」
・・・え?
想蘭がぼそっと零して私は首をかしげる。
「確かにな・・・誰にも甘やかされず甘やかさずの添伽の、だからな・・・」
玖音も想蘭に同意を示し、私の首は痛いくらいに傾いていった。
「明日の寝る前に蓮雅は体の形を保ててるかな?トロトロなってるかもよ」
魅蕾のセリフで私は全てを悟った。
添伽・・・絶対愛情が重いね?!
うぅ・・・私、その重そうな愛に耐えられるのか・・・。
両親からの溺愛を受けていたから少しの愛には慣れてるけど・・・行き過ぎだとなぁ・・・。
                                                              
この時、私はこれくらいにしか思っていなかった。
                                                                 
                                                                  
忘れてたんだ。
                                                                  
添伽は、私が拾った野良犬くんだって。
                                                                
                                                                  
思いもしなかったんだ。
                                                                    
野良犬は、拾ってくれた飼い主に懐くんだって。