クラスメイトでショーに出場するコトになっている子が泣きそうな顔で走ってきた。
「えっ・・・どうしたの」
口調を崩し、訊いてみると女の子は縋りつくように言う。
「化粧係代わってほしいんだって!」
「化粧係を?いいけど・・・」
「ホントっ?接客は代わるから!」
「うん・・・それで、なんで?」
私が代わる必要はあるのかな・・・?
「実はね、華蔵閣(けぞうかく)財閥の御曹司が来ててっ・・・みんな怖くてなにもできないの!」
なるほど・・・私の持ち前の明るさでどうにかしろと。
「オッケー・・・行くね」
私はすぐ目の前にあった化粧室に入り、なかに1人の男の子が座ってるのを見つけた。
横にガラスを貼り付けてもらった教室にはみんなが持ち寄ったメイク用品や髪ゴム、髪飾りなどがある。
ちなみに、華蔵閣財閥とは、世界有数の財閥のコト。
御曹司・・・ってコトは、華蔵閣さんの息子が来てるんだろう。
「失礼します。華蔵閣様で間違いないですか?」
「・・・ん」
愛想のない人なのか、華蔵閣さんは頷きもせず小さな声で答えた。
「ではヘアセットから始めていきますね。希望などはありますか?」
ただ鏡をじっと見ている華蔵閣さん。
・・・なかなかセンスがいいようだ。
イメージはおそらく・・・不良(ヤンキー)、だろう。
「ショーの出場は、ご自分からご希望を?」
「・・・親父にショーとかのキャラじゃないと思ってたら。
見聞を広めてこい、とかかな?
じゃあ髪は・・・執事服の時の私と同じでいいかな?
不良(ヤンキー)なら、お茶目な感じでいいだろーし。
きれいな金髪を櫛でとかし、ゴムを咥える。
サイドをみつあみする・・・んだけど。
髪の長さはちょうどいい。
肩まであるから結べないとかじゃないんだよ?
でもね、髪がサラサラすぎてどんどん落ちてく。
はぁ・・・しょうがない。
ワックス使うか・・・。
留めるためにゴムを使い、みつあみを左右で2回。
それを残りの髪と合わせ、高いところで結んだ。
「はい、こんな感じでよろしいですか?」
「・・・あぁ。そんなにかしこまらなくていい」
「あ、ホントですか?じゃあ名前教えてください」
急に黙り込む華蔵閣さん。
あれ、踏み込み過ぎたか・・・?
「・・・宵冬(よと)
「宵冬さん!よろしくです」
可愛らしい名前だ。
クールで冷たい見た目とは違って、そこもなんかギャップみたいでいい。
人気でそう・・・ショーでも想蘭たちと接戦だろうな・・・。
「・・・お前は」
手をひたすら動かしていると、宵冬さんから話しかけてくれた。
「獅堂蓮雅です!」
「蓮雅・・・か。候補に入れておく」
「・・・候補?」
はて、なんのコトやら。
候補・・・こうほ、だよね?
「メイクも少しします?」
「・・・したほうがいいか?」
「はい!」
なら喜んでさせてもらおう。
特注のラメ入りアイシャドーの青。
切れ目の瞳に合うようにつけて、鏡で確認する。
私、化粧のコトとかなぁんにも知らないから・・・大丈夫、だよね?
アイシャドーにアイって入ってるんだから目につけるものでいいよね?
若干の不安に煽られながら、最後に本人に訊いてみた。
「どうです?」
「・・・いい」
・・・OK貰えた、のか?
ちょっぴり困っていると、化粧室の扉が開いた。
「おー蓮雅!髪の毛いいかー?」
入ってきたのは琉亜で、元気いっぱいに手を振る。
いや、この教室手を振るほど広くないから。
他の教室と比べたら広いけど。
「・・・あ、蓮雅、付きのやつに挨拶してもらっていいか」
「お付きの方、ですか?」
「あぁ、候補に入れるからな」
「あの、候補って──」
「蓮雅ー!早くしないと第1部に間に合わねーぞ!」
候補について訊こうとしたところ、琉亜が急かすように叫ぶ。
「早く」
宵冬さんに促され、私は化粧室を出た。