七夕祭り当日。
私は楓たちに会ってしまいそうで、ビクビクしながら香織と創紀くん、雅空と来ていた。
「これから別行動にしないか〜?」
創紀くんが言う。
「いい、けど…」
香織がちょっと顔を赤く染め、返事をする。
「俺と、香織…奈那と雅空、でいいよなっ?」
創紀くん、ガンバレ!
これから2人きりになって告白するんだって。
「あー、じゃあ。奈那、食いたいものある?」
「えっと、なんでもいいかな」
「じゃあちょっと、俺に付き合って」
そう言って、手を差し伸べられる。
ど、どうしよっ…!
ここで手をとらなかったら、もう差し伸べてもらえないかもしれない。
私は思い切って手をとった。
雅空が微笑んでくれる。
「今日さ、花火あがんないんだって。だから、俺、花火買ってくるから、ちょっとここで待っててくれるか?」
花火、というキーワードにびくりと反応する。
ベンチを指さされ、私はうなずいた。
しばらくすると、おそるおそるといったような口調で、誰かに話しかけられた。
「もしかして、なんだけど。奈那?」
「えっ、湘(しょう)⁉︎ 久しぶり〜!」
湘は、小学生の頃の友達。
私は中学受験して、楓や湘と別れたんだ。
「やっぱりそうか!よかった〜、人違いだったらどうしようって思った」
湘は、私がいじめられてたことを知っている。
それで、何度か助けてもらったことがあるんだ。
「あはは、そう?」
「うん。…奈那、今ひとり?」
「そうだよ。と…」
友達、と言いかけて胸が痛んだ。(自分のせいだけど)
「人、待ってる」
「そっか。その人来たらさ、俺、言いたいことあるから、教えて」
「言いたいこと?」
湘はまだ教えられないといたずらっ子のような顔で微笑む。
「奈那、お待たせ…って友達?」
雅空は湘の登場に驚いたのか、眉を寄せて、首をかしげた。
「ええっと、紹介するね。こちらは、私の小学校の頃の同級生の湘!」
「湘です…、よろしくお願いします」
「こちらこそ…雅空っていいます」
2人の間にバチバチと火花が散って見えるのは気のせい⁉︎
最初から、気が合わないみたい…、困ったなぁ。
「あ、ちなみに俺、奈那と誕生日一緒なんすよ。7月7日の今日。七夕」
「へぇ…それはよかったですね、湘くん…」
「あっ、そういえば、お誕生日おめでとう、湘」
私は慌てて間にはいった。
2人、初対面なのに、もう犬猿の仲になっちゃってるよ!
「ありがとう、奈那もおめでと」
そう言ったあと、にらむように雅空の方を見る。
「雅空くん、奈那がなんで奈那って名前か知ってます?誕生日が7月7日だからっすよ。俺も湘っていう名前、小暑からとったらしいっす。ちょうど、7月7日頃だから」
へぇ、それは初耳。
「…ふぅん。それ、何情報ですか?」
「教科書ですが?去年の教科書に、『梅雨が終わりに近づく。この日から、大暑、つまり夏の暑さがさかんな時期に入り、暑さが増してくることです』…けどなにか」
すごく物知り!本当にすごいなぁ、湘。
「なるほど。これから奈那と花火をするって約束してるんで、さようなら」
ちょっと〜‼︎ 2人とも、気が合わないのはわかるけど、さすがに仲悪すぎる!
これから会ったときが気まずいんじゃないかな。
「あー、えっと、もしよかったら湘も花火しない?」
「えっ、マジ⁉︎ いいの?ありがとな〜。やっぱ奈那は優しいな」
湘が私じゃなくて、雅空のことチラ見した!
こんなつもりじゃなかったんだけど…。
「はい、これ。奈那のぶん」
雅空が不機嫌そうな顔で渡してくれた。
「あ、ありがとう」
「ん」
「奈那、火、わけて?」
湘が私の花火に湘の花火の先を当てる。
「おっ、ついた!ありがと!」
「どういたしまして〜」
『花火ってアンタみたい。いいとこ見せようとして、存在ごと消えるの』
『花火見たら惨めな気持ちになっちゃうのに〜』
ドキンッ。
心臓が、ひときわ大きく波うった。
花火を持つ手が震える。
花火はこんなに美しいのに、いつか消えちゃう。消えるのなんて当たり前だけど、楓の言葉がよみがえった。
そして、花火の火が消えた。
「…ッ!」
「あっ、消えちゃった?俺も消えたから、奈那のぶん持ってくるよ」
湘の優しさも、私は今、それどころではなかった。
『次の人…じゃなくて花火だね。が出て来て、人々はそれに魅了される。まるで、その前の花火がなかったようにね』
「…」
「奈那?…奈那ッ⁉︎ 大丈夫か⁉︎」
私は、湘の心配顔を最後に、意識が途絶えた__