「奈那‼︎ よかった、目が覚めて」
「大丈夫かっ、奈那⁉︎」
湘、雅空が私を見ている。
「私って…」
「花火をしてたら、いきなり奈那の意識が途絶えたんだ。そして慌てて、コイツ…湘と協力して、救急車を呼んで、今、奈那は病院にいるってわけ」
雅空が説明してくれて、申し訳ない気持ちになる。
「ごめん。せっかくの夏祭りだったのに。台無しにしちゃって」
「台無しになんかしてない。むしろ、お前__、雅空くんと仲良くなれた…かもしれないしな」
いやいや、今にらんでる時点で、仲良くなってないよ!
「そ、それはよかった…」
「まぁ、今は大丈夫か?」
雅空もにらみ返しながら、私にたずねた。
「うん。ありがとう」
「また楓たちに何か言われた?」
湘が私の目を真っ直ぐ見すえて、訊いてきた。
「…う、ううん!何も言われてないよ。ただ、寝不足だっただけだよ。自分のミス…あはは」
「楓?誰だソレ」
雅空は首をかしげ、
「正直に言ってくれよ。俺たちは味方なんだからさ」
湘はもうわかってるみたい。
私は上半身を起こして、白いシーツに目線を落としながら、話し始めた。
「うん…楓っていうのは、小学生の頃の同級生。私を__いじめてた」
雅空が息をのんだのがわかった。
「それでね、一昨日の放課後、楓と楓の取り巻きたちに会っちゃったんだ。それで、ゴミをおしつけられた後、私が七夕祭りに行くことがわかってたみたいで、すごく…言われた」
私は泣くのを我慢していた。
下唇を強く、強く噛む。
「前に、先生が掃き掃除をしてたから、ちりとりを持って行ったの。そうしたらね…、先生に気に入られたいから?とか言われて、頭からゴミをかぶせられてさ。笑えなくなったのも、そのせい。私の笑い方が人をバカにしたような笑い方でウザいって。イライラするって。だから、笑わないようにしたの。そうしたら、笑えなくなっちゃってね…今、香織とか亜美とか乙音とかの友達がいるのは、奇跡だと思うの」
「…口をはさんで悪いけど、俺は奇跡だとは思わない。奇跡なんて、存在しない。全部、奈那の実力だと思う。3人が奈那と仲良くしてくれるのも、3人は奈那のことが好きだからなんじゃないの?嫌いなヤツとは一緒にいないよ。もし嫌いなら、その楓?みたいにひどく扱われるだけだから。少なくとも、3人は奈那のこと、嫌いじゃないと思うよ、俺は」
雅空は、楓のことはあまりふれないで、友達のことを言ってくれている。
これだけのことを言ってくれて、その感想しかないのはどうかと思うけど、すごく嬉しかった。
「ごめん、続けて」
「うん。ありがとう。それでね、アンタは花火みたいって言われたの」
「アンタは花火みたい?どういうことだ?」
湘が険しい顔をする。
「ヤな予感しかしないな…奈那を傷つけるとか、いい度胸してるよな」
「な。たまにはいいこと言うじゃん、湘」
ここで和解した⁉︎
私が心の中で苦笑していると、
「花火って、俺は悪いイメージないけどな」
「だけどね、いいとこ見せようとして、存在ごと消えるの。笑えるよね。って。次の花火があがって、人々はそれに魅了される。まるで、その前の花火がなかったようにね…って。私、花火嫌いになっちゃいそうだよ…」
「なんだよ‼︎ 楓、許せない…ッ‼︎」   
湘が叫ぶ。
「ちょっ、静かに。ここ、病室」
私が言うと、俺たち3人しかいないんだいないんだから大丈夫だと湘が笑う。
「かわいい、奈那」
「かわいいっ⁉︎ 湘、どうしちゃったの⁉︎」 
雅空は、
「話がそれてる」
と無表情で言った。
「俺はさ、存在ごと消えるとは思わないよ。花火は人々に感動を与える。いつかはもちろん散ってしまうけど、その花火を目に焼きつけた人は、永遠に忘れないはずだよ。そのひとつひとつの花火があるからこそ、『美しい花火』になるんだよ」
「…っ」
「大丈夫、俺はずっと、いつまでも君を、君に似ているという花火を忘れないよ。だって、こんなに美しいものを忘れるわけがないじゃないか。花火って、綺麗だし。楓は、奈那の綺麗な心が羨ましかったんだよ」
私はとうとう泣き出してしまった。
「雅空ぅっ…」
「誕生日おめでとう、奈那」
「ふへぇ…っ⁉︎」 
雅空が、私の誕生日を祝ってくれた…⁉︎
「あっ、ヤベ、タイミング間違えたか…」
「…俺は邪魔者ってことっすか、雅空くん」
振り返ると、湘が不機嫌に腕を組み、雅空をにらんでいた。
「確かに、今いいところだからな。じゃあな、湘」
「ふぅん…」
湘は目を光らせたあと、
「元気でな、奈那」
「うん!湘も元気で‼︎ 今日、会えて嬉しかったよ。あと、小暑っていうのが勉強になったし!本当にありがとう。あっ、これ2回目だけどさ…お誕生日おめでとう」
「ありがと。それとさ、俺も雅空くん邪魔者なんだけど」
雅空が、ひゅっと息をのんだ。
「…なんだ」
「奈那、ちょっとだけ来てほしいんだ」
「うん」
私はベッドから降り、廊下に連れ出される。
「好きだ」
「へっ…⁉︎」
「好き、だ…奈那のこと。付き合ってください。小6の頃から、ずっと好きだったんだ」
私はおどろきすぎて、呆然とした。