発表予定日の日曜日が来た。落ち着かない午前中を過ごしたあと、カツカレーを買うためにスーパーへ行った。必勝を期すためになんとしても食べたかったが、残念ながら棚にはなかった。がっかりした。それに嫌な予感がした。悪いことが起こる前触れのような気がして気持ちが沈んだ。それでもそんな暗示に振り回されていたら運気が下がると思い直して代わりのものを探した。すると、アジフライが目に止まった。分厚くておいしそうだったので、ざるそばを合わせることにした。売場に行くと乾麺と生麺が並んでいた。いつもは安い乾麺を買うのだが、それでは良い結果は得られないと思って生麺に決めた。
アパートに戻って、ざるそばを湯がき、冷水で洗って、よく水を切って皿に盛った。そして、そばの上にワサビをちょんと付けて一口すすった。
う~ん、旨い!
乾麺とは風味が違っていた。少しリッチな気分になったので、すぐにアジフライに味ぽんをかけて食べた。すると肉厚の身が口の中を満たして至極を連れてきた。
たまらんな~、
思わず独り言ちた。
食べ終わって、残ったつゆにそば湯を足した。すするように飲むと丁度いい塩梅で、思わず頬が緩んだ。
13時になった。電話がいつ来てもいいようにトイレでオシッコを絞り出してからちゃぶ台の前に座って、台の上に置いたスマホに向かって両手を合わせた。
受賞しますように!
正座をしたまま、何度も祈った。祈り続けた。
しかし、1時間経っても2時間経っても夕方になってもスマホは無言を貫いた。
そりゃそうだよな~、そんな簡単に受賞できるわけないよな~、
受かることしか考えていなかったわたしは自分の単純な思考回路に苦笑するしかなかったし、これ以上待っても仕方がないので、タオルと下着を持って銭湯に向かった。
番台に座る顔見知りのおばちゃんに460円を渡して脱衣所に入ると、白髪のお爺ちゃん2人がパンツを脱いでいた。その近くでは太った中年のおじさんがフルチンで扇風機の前に立っていた。わたしは3人を見ないようにして浴室のドアを開けた。
風呂椅子にシャワーをかけてタオルで拭いてから座り、髪の毛を洗ってから体を洗った。かけ湯をしてすぐに浴槽に浸かる人が多いようだが、わたしは全身をきれいにしてからジェットバスに入って心ゆくまで刺激を楽しむ。そして、肩も背中もお腹も満遍なくブルブルさせて気持ちよくなったところで温めのお湯に浸かればもう何も言うことがない。あとは冷たい牛乳を1本飲めば完璧だ。さっと体をふいてパンツいっちょでごくごくと喉に流し込むと、いつものように極楽至極の世界がやってきた。
「今日も気持ちよかったです」と番台のおばちゃんに会釈をして、健康優良児のような顔になってアパートへの道をゆっくり歩くと、月は満月、風はビロードで、思わず鼻歌が出てしまった。
しかし、ドアを開けた瞬間、変な音に気づいて身構えた。低い唸り声のようなものが聞こえるのだ。
なんだ?
恐る恐る音のする方へ近づくと、ちゃぶ台の上でスマホが唸っていた。慌てて手に取ろうとしたが、掌に納まらず畳の上に落としてしまった。すぐに拾って応答操作をして耳に当てたが、既に切れていた。画面には知らない番号が表示されていた。
もしかして……、
その番号を検索すると、音楽制作会社の番号だということがわかった。
かけてみようか、
しかし、躊躇った。
もう少し待ってみよう、
スマホをちゃぶ台の上に置いてその前に正座した。
30分待ってしびれが切れたので思い切って電話をかけると、すぐに繋がった。用件を告げると、「しばらくお待ちください」と言われたが、1分も経たないうちに男性の声が聞こえた。「何度もかけたのですが、お出にならなくて」
スマホを耳に当てたまま、わたしは深くお辞儀をした。自分以外誰もいない狭い部屋で深く深くお辞儀をした。顔が紅潮しているのが自分でもわかった。しかし、スマホをテーブルに戻した瞬間、現実感が遠のいた。
本当?
本当に本当?
俄かには信じられなくて頬をつねった。
痛かった。かなり痛かった。夢ではなく、本当だった。わたしが応募した歌詞が新人デュオのデビュー曲に採用されたのだ。
アパートに戻って、ざるそばを湯がき、冷水で洗って、よく水を切って皿に盛った。そして、そばの上にワサビをちょんと付けて一口すすった。
う~ん、旨い!
乾麺とは風味が違っていた。少しリッチな気分になったので、すぐにアジフライに味ぽんをかけて食べた。すると肉厚の身が口の中を満たして至極を連れてきた。
たまらんな~、
思わず独り言ちた。
食べ終わって、残ったつゆにそば湯を足した。すするように飲むと丁度いい塩梅で、思わず頬が緩んだ。
13時になった。電話がいつ来てもいいようにトイレでオシッコを絞り出してからちゃぶ台の前に座って、台の上に置いたスマホに向かって両手を合わせた。
受賞しますように!
正座をしたまま、何度も祈った。祈り続けた。
しかし、1時間経っても2時間経っても夕方になってもスマホは無言を貫いた。
そりゃそうだよな~、そんな簡単に受賞できるわけないよな~、
受かることしか考えていなかったわたしは自分の単純な思考回路に苦笑するしかなかったし、これ以上待っても仕方がないので、タオルと下着を持って銭湯に向かった。
番台に座る顔見知りのおばちゃんに460円を渡して脱衣所に入ると、白髪のお爺ちゃん2人がパンツを脱いでいた。その近くでは太った中年のおじさんがフルチンで扇風機の前に立っていた。わたしは3人を見ないようにして浴室のドアを開けた。
風呂椅子にシャワーをかけてタオルで拭いてから座り、髪の毛を洗ってから体を洗った。かけ湯をしてすぐに浴槽に浸かる人が多いようだが、わたしは全身をきれいにしてからジェットバスに入って心ゆくまで刺激を楽しむ。そして、肩も背中もお腹も満遍なくブルブルさせて気持ちよくなったところで温めのお湯に浸かればもう何も言うことがない。あとは冷たい牛乳を1本飲めば完璧だ。さっと体をふいてパンツいっちょでごくごくと喉に流し込むと、いつものように極楽至極の世界がやってきた。
「今日も気持ちよかったです」と番台のおばちゃんに会釈をして、健康優良児のような顔になってアパートへの道をゆっくり歩くと、月は満月、風はビロードで、思わず鼻歌が出てしまった。
しかし、ドアを開けた瞬間、変な音に気づいて身構えた。低い唸り声のようなものが聞こえるのだ。
なんだ?
恐る恐る音のする方へ近づくと、ちゃぶ台の上でスマホが唸っていた。慌てて手に取ろうとしたが、掌に納まらず畳の上に落としてしまった。すぐに拾って応答操作をして耳に当てたが、既に切れていた。画面には知らない番号が表示されていた。
もしかして……、
その番号を検索すると、音楽制作会社の番号だということがわかった。
かけてみようか、
しかし、躊躇った。
もう少し待ってみよう、
スマホをちゃぶ台の上に置いてその前に正座した。
30分待ってしびれが切れたので思い切って電話をかけると、すぐに繋がった。用件を告げると、「しばらくお待ちください」と言われたが、1分も経たないうちに男性の声が聞こえた。「何度もかけたのですが、お出にならなくて」
スマホを耳に当てたまま、わたしは深くお辞儀をした。自分以外誰もいない狭い部屋で深く深くお辞儀をした。顔が紅潮しているのが自分でもわかった。しかし、スマホをテーブルに戻した瞬間、現実感が遠のいた。
本当?
本当に本当?
俄かには信じられなくて頬をつねった。
痛かった。かなり痛かった。夢ではなく、本当だった。わたしが応募した歌詞が新人デュオのデビュー曲に採用されたのだ。