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一途に夏川くんだけを見つめてきた。
ほかの人なんて目に映らなかった。
それなのに、なんてあっけないんだろう。
ふらふらする身体で、どうにか校舎の中に入った。
落ち着くまでトイレにこもっていよう──
「あっれー? 宮下さん、もしかして泣いてんの?」
顔を見られないように俯いてたはずなのに!
失恋してやさぐれていたこともあって、人生で初めて他人に舌打ちしたい気分になった。
上目で声をかけてきた人物をちろっと見た。
すると、その人物はオロオロしていた。
面白がったりはしていなかった。
……ええっと名前は何ていったかな……か、か、神林! そう、神林くんだ!
同じクラスになったことはなかった。
けれど、選択授業の美術で一緒だったから、かろうじて顔と名前だけは知っていた。
「どうした? 何かあった?」
あっ、これ……本気で心配してくれてるんだ。
それがわかったから、舌打ちしたかった気持ちは、しゅるしゅるしゅるっと消滅してしまった。
それどころか、話を聞いてもらいたくなった。
こういう話を聞いてもらう相手は、友達よりもほぼ知らない神林くんみたいな人のほうがいい気がした──