とはいっても、校内だ。

 誰がやってきたとしても、何ら不思議ではない。

 私が知らないだけで、先生たちが使う可能性だって十分考えられた。

 ひと気のない今のうちに話さないと。

 そこで私は第一声から本題に入った。

「私! 夏川くんのことが好きです!」

「あー、そうなんだ……」

 夏川くんの目が泳いだ。

 マズい!

 私は焦った。

「あのね、夏川くんの笑顔を見るとしあわせな気持ちになれるの!」

「いや、俺はアイドルじゃないし、そういうのは、」

「待って! 入学してから今日まで、夏川くんの笑顔に励まされてきたの!」

「だから、悪いんだけど俺は励ましたつもりなんてないし、そういうのは何て言うか……気持ち悪い」

「えっ、『気持ち悪い』?」

 胸にズドンっ! と大きな衝撃をくらった。

「じゃあ、そういうことで」

 そう言うと、夏川くんは私の涙が落ちる前に、階段を駆け下りていってしまった。

 まるでこの場から逃げ出すように──