得手不得手が真逆である二人は、互いの苦手科目を教え合って課題を終わらせるという手段を取ることにした。一人で懊悩して時間を無駄にするよりも、遥かに効率がいいはずだ。

 直輝に合わせるために、バッグから古典用のノートと筆記用具を取り出し、机の上に広げた。進捗具合を確認しようと直輝のノートをそろそろと覗く。ページの下半分が空白だった。

 国語は大学ノートを横にして使用する。それが古典の場合は、ページの真ん中に横線を引くよう教科担任から指示されていた。上段が本文。下段が現代語訳。古文はそれで済むが、漢文に関しては写した訓読文を書き下し文に直す必要もあるため、二ページ目に現代語訳を書くようになる。つまり漢文は、見開き一ページ分を丸々使用することになるのだった。

 直輝が開いているのは漢文のノートであった。課題として出された作品の訓読文を写し終えてはいるようだが、そこからは手をつけた様子がない。訳す以前に書き下し文に直す気力すら湧かなかったのだろうか。苦手であればそういうものかと、歩夢は自分の数学のプリントの空白の多さを思い出し、心の中で苦笑した。

「訓読文を書き下し文に直す方法は問題ない?」

「途中で訳が分からなくなる」

「そっか。説明の上手さは期待しないで聞いてほしいんだけど……」

 書き下し文までは済ませている自分のノートと見比べながら、歩夢は前のめりになって直輝のノートに目を通した。指で文字を示しながら、ぎこちなく説明していく。

 漢文は、上から下に順に読んでいくのが基本だった。返り点がついた漢字は一旦飛ばして次へ進み、戻れの合図があれば戻って読む。その合図とは、レ点、一二点、上下点といった、漢字の左下の隅に書かれている符号のことである。