持ってきたノートを広げながら突拍子もなく問うてきた直輝に、勉強とは全く別のことを考えていた歩夢は動揺してしまう。それにより吃ってしまいながらも、なんとか最後まで喋り切った。歩夢が喋り終えるまで待っていてくれた直輝が何度か頷き、冷や汗をかきそうになっている歩夢を見やる。

「古文と漢文の訳とか、一緒にしながら教えてくれる?」

「え……、俺、教えるの下手だし……、ネットで調べた方が……」

「ネットで検索はするなって先生言ってたし、あの先生、そういうところやたらと厳しいから」

「あ……、そっか……、そんなこと言ってたね、確か」

「だからね、教えてくれる?」

 直輝に目をじっと見つめられる。真意の読めないその両眼が、肯定以外の選択肢を奪っているかのように思えた。拒否できる雰囲気ではない。直輝から時々醸し出される圧のようなそれであった。

 ここで否定の言葉を口にしてしまうと、自分が何か聞きたい時に聞きづらくなってしまう恐れがある。歩夢は目を泳がせてしまいながら、一回、二回、頷いた。直輝の役に立てるのなら、なんだってしたい。なんだってする。

「……うん、俺に分かることであれば、教える」

「ありがとう。お礼に俺も何か協力するよ。数学とか」

「数学、教えてくれるの? それはありがたいな。俺、数学苦手だから、プリントするの凄く苦労してて……」

 歩夢は自嘲気味に笑った。国語は好きな方ではあるが、数学は嫌いであった。たくさんの数字を並べられると、頭の処理が追いつかなくなるのだ。解き方を教えてもらってもすぐには理解できず、また公式を知ってもなかなか使い熟すことができない。すらすら解けたことなどないと言っても過言ではなかった。いつもどこかで引っかかり、蹴躓いてしまう。