ペットボトルのキャップを開けながら抑揚なく話す直輝は、歩夢の行動を特に気にする様子もなかった。意識など全くされていないと感じる。

 蓋を開けたペットボトルを手にした直輝が透明なコップにお茶を注ぐ。涼しげな音がした。氷と氷がぶつかる軽い音であった。パッと見た時は気づかなかったが、どうやら氷まで入れてくれていたようだ。直輝の些細な気遣いに頭が上がらない。

「歩夢くん、そっち座る?」

「あ、うん」

 そっち、と直輝の向かい側を示され、歩夢は大人しくそこに腰を落ち着けた。斜めがけしたバッグを肩から外す。それを静かに床に置いたタイミングで、コースターの上に乗せられたコップを近づけられた。ありがとう、と会釈混じりにお礼を述べる。歩夢は喉が渇いていたものの、すぐに手をつけることはしなかった。

 二人分のお茶を注いだ直輝と机を挟んで向かい合い、暫し無言のまま、エアコンの冷風に吹かれて涼んだ。汗が引いていく。直輝がコップに口をつける。深く考えることもなく歩夢もそれに倣い、渇いていた喉を潤した。

「……課題する?」

 コースターの上にコップを置いた直輝が、歩夢に目を向け口火を切る。歩夢は直輝と同じ柄のコップから唇を離した。自然と直輝を見たものの、ずっとは見ていられず、一秒も経たずに目を逸らしてしまう。いつまで経っても目を合わせて話せないのを誤魔化すかのように、手にしていたガラスの容器をコースターの上に乗せた歩夢は、その中で揺れる水面を瞳に映した。

「……うん、まあ、するかな。面倒だけど、そのために、直輝くん家に来たしね。少しくらい手をつけないとな、とは思ってるよ」

「……そう。うん、分かった。やろうか」