「ごめん、なんとなく、入りにくくて……」

「それなら、戸、開けてくれる?」

「……うん」

 直輝に指示されるがまま、歩夢は把手を握り、下へ捻って戸を開いた。室内から冷えた空気が漏れ、歩夢の肌を掠める。あまりの涼しさに我先に引き込まれてしまいそうになったが、ありがとう、と中へ入って行く、ここの主である直輝をまずは優先し、歩夢はその後に続いた。

 冷風を無闇に逃さないよう、開いた戸を静かに閉める。その後、不躾に室内を見回してしまいながら、いつ来ても整理整頓が行き届いている部屋だと思った。歩夢が来る度、綺麗にしているのか、元々綺麗好きなのか。余裕のある直輝の姿を見る限り、後者のような気がする。その上、直輝は生き物を飼っているのだった。衛生面では常日頃から注意しているのかもしれない。

 用意されていた机の上に、一階から持参したものを置き始める直輝の後ろを、歩夢は何かに吸い寄せられるように通り過ぎる。直輝の勉強机の横に設置されている台の上にある小さめの水槽の前で、歩夢はゆっくりと足を止めた。その中では一匹の金魚が泳いでいた。直輝が飼っているのは、去年の今頃に行われた夏祭りの金魚掬いで掬ったという金魚であった。

「歩夢くん、うちに来るといつも金魚見てくれるよね」

 水槽に目線を合わせるように前のめりになりながら、優雅に泳ぐ金魚を目で追っている最中で声をかけられ、はっと我に返る。歩夢は素早い動きで身を引き、癖のようにすかさず謝っていた。

「ごめん、勝手に……」

「いいよ。興味持ってくれて、俺も嬉しいから」