歩夢を振り返った直輝が、歩夢の顔と、歩夢が軽く持ち上げた袋を順に見て、それからすぐに、いいよ、食べよう、と頷いた。嫌な顔はされなかったことに、ひとまず安心する。

「アイス、いくらした?」

「あ、お金? それは大丈夫だよ。俺が直輝くんと、一緒に食べたくて、買ってきただけだから」

「……ありがとう。冷凍庫に入れておくから、貸して」

 直輝が手を差し出す。歩夢は自分の手元に目を向け、アイスの入った袋を直輝に渡した。保冷剤も何も入れていないため、直射日光を浴びて溶けかけているに違いない。もう一度冷やしてゆっくり食すのが賢明だ。

 アイスを直輝に預け、家に上がるよう促された歩夢は、お邪魔します、と半ば緊張しながら、意識している人の家に足を踏み入れた。背後で網戸が閉められる。閉めるのは当然であるはずなのに、直輝の手によって、外の世界との接触を遮断されたような気がしてしまった。直輝の顔色は、何も変わっていない。

 主導する直輝に倣って靴を脱ぎ、揃え、床を踏む。静かに直輝について行っていると、二階へと続く階段の前で足を止めた彼が歩夢を振り返った。

「先上がってて。アイス、冷凍庫に入れてくる。ついでに冷たい飲み物とかも持って行くから」

「あ、それなら俺も、手伝うよ」

「歩夢くんは何もしなくていいよ。ありがとう。先に行って?」

「あ……、うん……」

 口調はいつも通り柔らかいものの、そこには有無を言わせないような圧があった。元々控えめな性格の歩夢はそれ以上食い下がることができず、直輝の言われた通りにする他ない。ここは直輝の家なのだ。西条家の住居なのだ。お邪魔している立場である歩夢が、自由に動き回っていい場所ではなかった。