日陰がある場合は日陰を優先し、できるだけ日に当たらないよう歩き続け、ようやく目的地に辿り着いた。すぐに人の姿を発見する。直輝だ。彼は玄関の付近でスマホを触りながら立っていた。

「直輝くん、ごめん、待った……?」

 歩夢は寄り道をしてしまったことで時間に遅れてしまったのかと内心で焦りながら小走りで駆け寄り、こめかみを流れる汗を手の甲で拭った。スマホから視線を上げて歩夢を認めた直輝が、玄関の網戸に手をかけ口を開く。

「待ってたよ。早く来ないかなって、待ってた」

「早く……」

「暑かったよね。部屋、冷房つけてるから、ゆっくり涼んで」

 思わずドキリとするような台詞を恥ずかしげもなく平然と言ってみせる直輝に、歩夢の身体は内側から熱くなった。同時に顔も火照ってしまうのが分かったが、秘めた感情を悟られないよう汗を拭うことで咄嗟に誤魔化す。

 その台詞はきっと、友達としての冗談だ。自分たちはただの友達に過ぎないのだから。

 直輝は時折、そんな風に期待させるようなことを口にする。歩夢はそれに振り回されていた。歩夢が直輝に特別な感情を抱いていることを、直輝は知らない。知らないから、発言に慎重になることがないのだろう。良く言えば、心を開いてくれていることになるだろうが、悪く言えば、意識されていないということになる。

 何も気づいていない直輝に思っていることを伝えれば、自分に意識が向くだろうか。歩夢は家に上がる直輝を見つめながら、ぎゅ、と手を握り締めた。その手が、袋の持ち手の感触を思い出させた。反射で声が出る。

「あ、直輝くん、これ、アイス、買ってきたんだ。よかったら、一緒に食べない?」