直後の漢字を読んだらすぐ前の漢字に戻るレ点。一点のついた漢字を読んだら、二点のついた漢字に戻る一二点。上点のついた漢字を読んだら、下点または中点のついた漢字に戻る上下点。

 それぞれの返り点のルールさえ理解していれば、どのような作品でもそれなりに読むことは可能だった。複雑に組み合わさると混乱してしまうこともあるが、ゆっくり時間をかけて読めば意外とどうにかなるものである。

「最初の一文はそのまま読んで、『張僧繇(ちょうそうよう)は、呉中の人なり。』也はなりに変換する。それで次は、武帝までは読んで、崇に返り点がついてるからこれは一旦飛ばす。下の飾を読みたいけど、この漢字は竪点(たててん)で崇と繋がってるから、崇と飾は熟語になる。これも飛ばす。仏寺までいくと、寺に一点がついてるから二点に戻る。これで読むと、『武帝仏寺を崇飾(すうしょく)し、』になるかな。読む順番としては……」

 歩夢は人差し指で、直輝の書いた文字を追った。一、二、三、四、五、六。数字を声に乗せながら指を動かし、直輝に視線を投げる。自分の下手な説明で理解できただろうかと不安だったが、直輝はなんとなく分かった気がすると握っていたシャーペンで訓読文の下に書き下し文を書き始めた。歩夢は手を退ける。直輝は次の文に進んでいく。手助けはもう必要ないかもしれない。歩夢はそろそろとお茶を飲んだ。

 画竜点睛。それが、漢文の課題として出された故事だった。物事を立派に完成させるための最後の仕上げ。物事の最も肝心なところ。という意味であり、画竜点睛を欠く、ということわざの由来となったものである。

「歩夢くん。崇飾し、からは、こんな感じでいい?」